麻疹ウイルス株の命名法と遺伝子型分類

弱毒生麻疹ワクチンの普及に伴って麻疹罹患者は著明に減少した。しかし地球規模では毎年 100万人に及ぶ乳幼児が麻疹で死亡している。このような状況にあってWHO(世界保健機関)はその撲滅を目標とする予防接種拡大計画(EPI)を推進している。近年、野外麻疹ウイルス(MV)の高感受性細胞(B95a)とPCR法の普及に伴い、世界中で分離される多数のMV株の分子疫学的解析にウイルス株の命名法を統一する必要が指摘されていた。

1998年5月に開催されたWHO麻疹専門家会議“Standardization of the Nomenclature for Genetic Characteristics of Wild-type Measles Viruses"において、MV株の命名法の統一およびウイルスバンクの構築が提案された。

 1.野外MV株の命名法
MVi/City.Country/Weeks-Year/Strain number[Genotype]と表示する。Weeksは1年52週で表す。Strain numberは各施設での整理番号。[Genotype]については後述。PCRで遺伝子検出の場合には、MViに代わりMVsと表記する。

 例:1998年2月22日に茨城県で採取された患児検体から分離されたウイルスでは、MVi/Ibaraki.JP/8-98/9805[D4]と表記する。

 2.麻疹ウイルスバンク
米国CDCを中心に各地域にウイルスバンクを構築する。わが国はアジア地域のバンクの構築を要請されている。その主要は目的は分子疫学的解析にある。またバンクでは流行ウイルスの性状解析の他に株の維持、保存および分与を行う。わが国においては国立感染症研究所ウイルス製剤部麻疹室がバンクを準備中である。当研究室ではこれまで医療機関、地方衛生研究所などの協力により1980年代以降の国内の野外MV350株以上を分離、保存している。

 3.遺伝子型分類とわが国の分離株
[Genotype]はNP遺伝子のC末端(1,230〜1,685)の塩基配列から“Standardization of the nomenclature for describing the genetic characteristics of wild-type measles viruses. WHO, Weekly Epidemiological Record, 1998; 73:265-269を参照してタイプを決定する。

現在、わが国での流行ウイルスはD3タイプ、もしくはD5タイプに分類される(の□の中)。

1980年代の流行から始まったH遺伝子の変異は1990年代になってF遺伝子に及んでいる。最近の流行ウイルスは1950年代の流行ウイルスとの間にH遺伝子で50〜60塩基(アミノ酸では16〜18カ所)、F遺伝子では30〜33塩基(アミノ酸で2〜3カ所)に置換が起こっている。H蛋白、F蛋白は感染防御抗体を作らせる蛋白なので、これらの部位での変異を注視する必要がある。幸い、現在までのところ現行ワクチンによる感染防御効果には変化は見られない。

国立感染症研究所毒性病理室、麻疹室
小船富美夫 竹田 誠

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