アラスカ・アンカレッジでの麻疹流行、1998年−米国

1998年8月10日〜11月23日までの間に33例の麻疹患者がAlaska Department of Health and Social Services(ADHSS)により確認された。このうち26例は麻疹IgM抗体検査が陽性で、7例は臨床診断基準を満たしていた。これは1996年以来米国内で最大の流行であり、ADHSSは次のように報告をまとめ、麻疹ワクチン2回接種の必要性を強調した。

8月10日、index caseである日本から来た4歳の子どもがアンカレッジ滞在中に発疹を発症した。その子は1日入院し、EIA法でIgM陽性で麻疹と診断されたが、ウイルスの培養はされなかった。その後3週を過ぎても次の感染例は報告されなかった。輸入例発症から26日後16歳の高校生が麻疹を発症し、IgM陽性で確定診断された。これに続いて同じ高校の生徒15人と教師1人が9月14日〜10月4日の間に発症した。12人が検査陽性であった。これに加えて4例の検査陽性患者と2例の臨床診断による麻疹患者がアンカレッジの他の6つの学校から報告された。このうち一人は感染期間中(発疹発症日前7日〜後4日まで)に2つの学校に通っていた。このほか検査陽性で学校とは関係のない青年患者8例と、2歳の子どもの感染が1例報告された。

33例の患者の年齢は2歳〜28歳(中央値は16歳)で、29症例は少なくとも1回は麻疹ワクチンの入った予防接種を12カ月齢以降に受けていた。検査陽性患者のうち一人は適切な間隔をおいて2回のMMRを受けていた。重症な合併症や死亡例は報告されていない。

17人が発症した高校で調査したところ、2,186人中たった一人だけがこの集団発生の前に1回も麻疹ワクチンの入った予防接種を受けていなかった。1,057人(49%)が麻疹ワクチン入り予防接種を1回、1,112人(51%)が2回またはそれ以上接種を受けていた。2回またはそれ以上接種を受けていたもののワクチン有効率は100%であった。

集団発生例から分離された3株のウイルスのシークエンスを行ったところ、いずれもgenotypeD5であり、これは1998年に日本で流行していた麻疹野外株とほぼ一致し、アラスカでの最も最近の流行株である1996年にJuneauの集団発生から分離された株とは関連がなかった。1996年以前には、アラスカでは公立・私立校ともに特殊な例外を除いては麻疹ワクチンを少なくとも1回受けることが要求されていた。1996年9月からは幼稚園入園時、または小学1年生入学時全員に2回の麻疹ワクチン接種完了が必要とされ、その結果、1998年秋現在、学校記録によると幼稚園児〜小学3年生までのすべての生徒は、2回のMMRを受けたことになっている。4年生〜高校3年生については2回接種を受けた子どもがどのくらいいるのかは不明である。

この集団発生を受けてADHSSは1998年11月16日までにアンカレッジで通学するすべての生徒は麻疹ワクチンを2回受けていなければならない、と緊急命令を発した。この命令は全州に波及し、1999年1月4日までにすべての学童は2回の麻疹ワクチンを接種していなければならないということになった。生徒たちは彼らの健康管理者およびアンカレッジの学校管轄診療所などでワクチン接種を受け、11月17日までにアンカレッジ学校区において49,346人中99%がすでに2回の接種を済ませたと報告している。

MMWR Editorial Note:高い麻疹ワクチン1回予防接種率にもかかわらず、主として1校で起こったこの集団発生は、学校における2回接種の重要性を示唆した。麻疹ワクチンは有効性が高く、1回の接種で免疫を獲得しない子どもは5%以下である。二次接種にはほとんどの子どもが反応し、12ヵ月齢以降の子どもであれば、28日以上の間隔をおいて2回以上接種すれば99%が免疫を獲得する。

予防接種実行諮問委員会およびアメリカ小児科学会は、幼稚園〜高校3年生までのすべての生徒は2001年までに2回の麻疹ワクチン接種を受けるよう推奨している。1998/99学校年度現在で、麻疹ワクチンの2回接種終了率は全米で53%程度である(CDC未発表データ)。今回の集団発生に対するアンカレッジ公衆衛生当局と学校当局の積極的な取り組みによって流行の拡大は阻止され、アラスカの学校における将来の麻疹流行は予防されるであろう。

麻疹サーベイランスにおいて、ウイルスのgenotypeを観察することは重要なことである。これによって今回の流行が日本からの輸入によることがわかった。しかしながら、index caseからは検体がとられておらず、麻疹疑い患者からは、発疹出現後速やかに咽頭ぬぐい液と尿の検体採取の必要性があることが今後強調されなければならない。米国内では流行中の麻疹ウイルスはないが、今後も輸入麻疹ウイルスがハイリスクな状況(つまり2回接種率が低い学校)にもたらされれば集団発生は常に起こり続けるだろう。
(CDC、MMWR、47、Nos.51&52、1109、1999)

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