仕出し弁当を原因食品とした小型球形ウイルスによる集団食中毒事例−熊本市
1998年11月4日、熊本市内において仕出し弁当を原因とする小型球形ウイルス(SRSV)食中毒が発生したので、その概略を報告する。
事件は11月6日に探知され、その後の調査で同一施設内で調理された仕出し弁当を摂食した54名中、4グループ35名が発症していることがわかった。主症状は下痢(71%)、嘔気(71%)、発熱(66%)、腹痛(57%)、嘔吐(40%)で、一般的に軽症であった。患者発生は11月4日〜8日まであり、11月4日の仕出し弁当を原因とした場合の平均潜伏時間は36.6時間であった。原因となった仕出し弁当にはカキは含まれていなかった。
原因物質および感染源を究明するために、患者便16検体、調理者および調理施設の家族の便のべ20検体、弁当残品等の食品(11月4日〜6日分)35検体、施設のふきとり9検体が所轄の保健所から搬入された。発生状況から考慮してSRSVによる食中毒が強く疑われたことから、細菌検査とSRSVの検査を並行して行った。
11月6、7日に搬入された患者便、残品およびふきとり等の57検体について細菌検査を、患者等の便14検体についてSRSVの検査を搬入当日に実施した。細菌検査では既知病原菌が検出されず、電子顕微鏡法(EM法)でSRSV様ウイルス粒子が患者便10検体中9検体に確認されたことから、今回の食中毒の原因はSRSVであると判断し、その後に持ち込まれた患者便等についてはSRSVに絞って検査を行った。
SRSV遺伝子のPCR検査では、35'/36系(1st 35'/36、Nested NV81/NV、SM82)のプライマーで検出できず、Yuri系(1st MR3/4、Nested Yuri 22F/22R)のプライマーで検出できた。感染源を究明するために、食品残品およびふきとり等32検体についてYuri系のプライマーを用いてRT-PCRを行ったが、すべて陰性であった。
調理者便からSRSVを検出したが、調理者も原因食品を摂食していることから、今回の事件が調理者を介した汚染によるものかどうか不明であった。しかし、熊本県感染症情報(10月25日〜31日集計)によると、原因施設のある熊本市西地区では感染性胃腸炎が増加しており、事件発生の2日前(11月2日)に原因施設の幼児(表の子供B)が下痢を呈し受診していたことから、この子が2日にSRSVに感染していた可能性も示唆された。11日の検便ではSRSVを検出している。従って、原因施設内で子供→家族の手指→弁当と汚染された可能性も考えられた。
調理者等についてSRSV保有の経時的観察を行ったところ、表に示したように、子供BはEM法で確認した期間だけでも3週間にわたってSRSV様ウイルス粒子を保有していた。今のところ、この子供の長期間ウイルス排出が同じウイルスによるものか、再感染(異なったタイプの)によるものか不明である。RT-PCR産物のシークエンス等を行い解明したいと考えている。
熊本市環境総合研究所 松岡由美子 阿蘇品早苗 本田れい子
熊本西保健所 植野裕子 杉山征治