医療機関等で分離された下痢原性大腸菌疑い株の病原因子保有状況−秋田県

下痢原性大腸菌を同定する場合、生化学的性状から大腸菌と同定された分離株について、初めに市販血清キットを使用したスクリーニングを実施し、陽性と判定された場合、次にエンテロトキシンや志賀毒素などの病原因子の有無を確認することが一般的に行われている。当所では、1991年から医療機関等で分離され、市販血清キットを使用したスクリーニングにより下痢原性大腸菌疑い株とされた株について、PCRにより病原因子の検出を実施してきたのでその成績について報告する。

PCRによる標的遺伝子と、それらの遺伝子が検出された大腸菌の同定結果は以下のとおりである;ST、LT、ST+LT:ETEC、eaeA:AEEC、EAST+aggR、aggR:EAggEC、Stx1、Stx2、Stx1+Stx2:STEC、InvE:EIEC。ただし、EASTのみを保有する菌の病原性は未確認であることから、当該株の同定は保留した。

1991年〜1998年に供試した、合計1,271株の病原因子保有状況を表1に示した。供試株は市販血清キットに含まれる43種類のO群のうち、O166群を除く42種類のO群のいずれかに属していた。表2に示すように、1,271株中STECの検出数が最も多く(7.2%)、次いでEAggEC(6.6%)、AEEC(6.0%)、ETEC(3.1%)、EIEC(0.2%)の順であり、いずれかの下痢原性大腸菌に同定された株の合計は294株(23%)であった。ただし、STECの検出数が最も多かったことは、下痢患者から下痢原性大腸菌のうちSTECが最も高頻度に分離されることを意味しているわけではない。その理由は、医療機関によっては、STECである可能性が高いO157群やO26群の大腸菌株だけを当所に送付し、それ以外の血清群の大腸菌株は送付しないことによる。

表3に病原因子保有率が上位11位までの血清群を示した(供試株数10株以上の株のみ集計対象)。O157群とO26群の病原因子保有率はいずれも80%を越えていた。また、O148、O25、O169はETECとして報告のある血清群、O26、O111、O126、O55、O127a、O119、O128はいわゆるクラシカルEPECの血清群であった。これらのうちO111、O126、O127aは主としてEAggEC、O128、O55は主としてAEECであり(表1)、このことは、EPECが病原機構の異なる複数の種類の下痢原性大腸菌からなる菌群であることを示すものと考えられた。なお、散発事例だけではなく、O148群、O169群、O111群、O126群を原因とする食中毒も秋田県において発生している。また、異なる種類の病原因子を保有する下痢原性大腸菌が同一血清群に属する例もあった。例えば、O157群、O128群、O26群にはSTECとAEEC、O25群にはETEC、STEC、EAggECが含まれていた。

供試株のうち最も多かった血清群はO1であり、全供試株の20%を超えていた。しかし、O1群にはEASTを保有する株が1株確認された以外、標的とした遺伝子が検出された株は認められなかった。同様に、O18群も全供試株の10%を超えていたが、EASTのみを保有する株が2株確認されたのみであった。O1群やO18群の大腸菌が、今回標的とした遺伝子の関与する機構とは異なる、未知の機構によりヒトに下痢を惹起する可能性も否定できない。今後、これらの菌の下痢原性の有無について、病原機構の解析や感染疫学の解析などにより検討することが必要と考えられる。

秋田県衛生科学研究所
八柳 潤 齊藤志保子 安部真理子 佐藤宏康 宮島嘉道

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