The Topic of This Month Vol.20 No.4(No.230) | 1999年4月号 |
* 2003年11月の感染症法改正についてはこちらへ |
わが国における感染症サーベイランス(発生動向調査)は、これまでに1)患者発生状況サーベイランス、2)病原体サーベイランス、3)伝染病流行予測事業(ワクチン予防疾患に関する国民の免疫保有状況調査)の3つの体系で行われてきたが、これらは法的根拠に基づくものではなかった。1999(平成11)年4月施行の「感染症の予防及び感染症の患者の医療に関する法律(感染症新法)」では、その大きな柱の一つとして感染症サーベイランスが挙げられており、感染症に関する情報の収集および公表、感染症の発生状況および動向の把握そしてその原因の調査として医師の届け出に基づくサーベイランスシステムの強化が示されている。また感染症の病原体に関する情報も、患者への良質かつ適切な医療の提供のためには不可欠であり、感染症の予防と対策のためにも重要な意義があるとの認識から、患者発生状況サーベイランスと同様に病原体に関する情報の収集、分析および提供と公開も必要であるとされている。提供・公開していく内容は、一般国民や第一線の医療現場にいる者にとって有益な情報になることとされている。また感染症新法においては、積極的疫学調査(感染症の発生状況、動向および原因の調査)の規定が設けられており、日常実施していく感染症サーベイランス調査等の結果に基づいた的確な実施が求められている。
感染症新法に基づいて定められた新たな感染症発生動向調査事業は、これまでの感染症サーベイランス体制を充実・強化し、情報を全国規模で迅速に収集、分析、提供・公開していくコンピュータ・オンラインシステムの再構築と積極的疫学調査の実施により、有効かつ的確な感染症対策の確立に資することを目的としている。実施の主体は、国・都道府県および保健所を設置する市(特別区を含む。以下都道府県等)である。
対象疾患:感染症新法では、新しい感染症類型の1類感染症から4類感染症まですべてをサーベイランスの対象疾患としている。1〜3類感染症および4類全数把握疾患については、全例がサーベイランスの対象であり、4類定点把握疾患はあらかじめ定められた定点からの報告に基づいてサーベイランスが行われる。1類感染症および2類感染症のうちコレラ、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフスについては、患者および疑似症患者、無症状病原体保有者が対象となる。2類感染症のうち、ジフテリア、急性灰白髄炎および3類感染症の腸管出血性大腸菌感染症については、患者および無症状病原体保有者が対象となる。対象疾患を表に示した。
実施体制の整備:全国のサーベイランスの中心的な役割を果たすものとして中央感染症情報センターが国立感染症研究所・感染症情報センター内に設置される。各地方においては、その地域のサーベイランスの実施のために、各都道府県等域内に1カ所、地方衛生研究所(以下地研)内等に地方感染症情報センターが設置される。また都道府県、保健所を設置する市、特別区の地方感染症情報センターの中から1カ所を基幹地方感染症情報センターとし、都道府県全域の情報の収集・分析を行い、その結果を各地方感染症情報センターに送る。各方面の感染症専門家の参加を得て厚生省に中央感染症発生動向調査企画委員会が、各都道府県等には地方感染症発生動向調査企画委員会が設置される。
1類、2類、3類感染症のサーベイランス:
対象疾患を診断した医師:診断した医師は、直ちにその者の氏名・年齢・性別その他様式にある項目について最寄りの保健所に届出を行う。病原体検索などについて保健所から依頼があった場合には、可能な範囲で、検体または病原体情報などについて保健所の協力のもとに検査表・検体を地研に送付する。
保健所:保健所は直ちに都道府県等の本庁および地方感染症情報センターへコンピュータ・オンラインシステムによって情報を電送する。必要に応じて診断した医師に対して、病原体検査または病原体情報の地研への提供を依頼する。また保健所は、地方感染症情報センターから呼び出した患者情報および病原体情報について、週報などにより定期的に市町村、関係医療機関、医師会、教育委員会等に配布をする。なお届け出のあった保健所では、届け出の事実(個人情報に関する事項を除き)について、前述の関係諸機関に連絡をする。
地方衛生研究所:依頼された検査を行い、その結果を保健所を経由して診断した医師に通知をする。病原体情報および検査結果は、保健所、都道府県の本庁および地方感染症情報センターに送付される。地研で実施困難な検査については、国立感染症研究所へ検査の依頼を行う。
国立感染症研究所:依頼された検査を実施し、その結果を依頼した地研および中央感染症情報センターへ通知する。
都道府県等の本庁:管内の情報について保健所からの電送があり次第、コンピュータ・オンラインシステムにより中央感染症情報センターへ電送する。また地研から送付された検査情報についても、直ちに中央感染症情報センターに報告をする。
地方(基幹地方)感染症情報センター:地方感染症情報センターは管内の患者情報・病原体情報の収集・分析を行うとともに、公表される全国情報とあわせて週報などの方法により保健所等の関係機関に情報の提供・公開をする。基幹地方情報センターは、管内の情報について同じく全国情報とあわせて地方感染症情報センター等に提供・公開をする。
中央感染症情報センター:都道府県等の本庁から送られた患者情報を速やかに集計し、分析評価して全国情報として4類感染症とともに週報などの方法で都道府県等の本庁に送付する。病原体情報については分析評価を行い、速やかにその結果を都道府県等の本庁に送付するとともに、必要に応じて週報等に掲載する。
4類(全数把握)感染症のサーベイランス:
対象疾患を診断した医師:診断した医師は、7日以内にその者の年齢・性別その他様式にある項目について最寄りの保健所に届出を行う。病原体検索などについては、1〜3類感染症と同様に行われる。
保健所:保健所は7日以内(なるべく早く)都道府県等の本庁および地方感染症情報センターへコンピュータ・オンラインシステムによって情報を電送する。また表に掲げた4類感染症病原体サーベイランス対象疾患については、必要に応じて、診断した医師に対して病原体検査または病原体情報の地研への提供を依頼する。
また保健所は、地方感染症情報センターから呼び出した患者情報および病原体情報について、週報などにより定期的に市町村、指定医療機関その他の関係医療機関、医師会、教育委員会等の関係機関に配布をする。
地方衛生研究所:1〜3類感染症と同様。
国立感染症研究所:1〜3類感染症と同様。
都道府県等の本庁:管内の情報について保健所が届け出を受けてから7日以内に、コンピュータ・オンラインシステムにより中央感染症情報センターへ電送する。また地研から送付された検査情報については、直ちに中央感染症情報センターに報告をする。
地方(基幹地方)感染症情報センター:1〜3類感染症と同様。
中央感染症情報センター:都道府県等の本庁から送られた患者情報を速やかに集計し、分析評価して全国情報として1〜3類感染症および定点把握4類感染症とともに週報などの方法で都道府県等の本庁に送付する。病原体情報については1〜3類感染症と同様に行われる。
4類(定点把握)感染症のサーベイランス:
定点:保健所管内の人口の割合から配置され、都道府県全体の患者発生状況が把握できるよう考慮して、定点数が決定される。定点は、小児科定点(全国約3,000)、インフルエンザ定点(小児科定点3,000プラス内科定点約2,000)、眼科定点(全国約600)、STD 定点(全国約900)および入院患者を対象とする基幹定点(小児科および内科医療を提供する300床以上の病院、全国約500)からなり、その対象疾患は表に示されている。病原体定点は、小児科、インフルエンザ、眼科各定点の約10%、基幹定点のすべてを病原体定点として、病原体サーベイランスを行う。対象疾患は表に示されている。
定点からの届け出:小児科、インフルエンザ、眼科定点の疾患および基幹定点から耐性菌感染症を除いた疾患は1週間を調査単位として、STD定点および基幹定点のうち薬剤耐性菌感染症については各月を調査単位とし、それぞれの様式にしたがって発生状況が保健所に連絡される。病原体は、地研に送付される。
保健所:保健所は患者定点から得られた患者発生状況を、都道府県等の本庁および地方感染症情報センターへコンピュータ・オンラインシステムによって情報を電送する(週単位報告は調査対象の翌週の火曜日まで、月単位の場合は調査対象月の翌月の3日までに電送する)。また保健所は、地方感染症情報センターから呼び出した患者情報および病原体情報について、1〜3類感染症と同様に情報の還元を行う。
地方衛生研究所:依頼された検査を行い、その結果を病原体情報として病原体定点に通知をするとともに、保健所、都道府県の本庁および地方感染症情報センターに送付する。地研で実施困難な検査については、国立感染症研究所に検査の依頼を行う。
国立感染症研究所:1〜3類感染症と同様。
都道府県等の本庁:管内の情報について保健所から電送があり次第、コンピュータ・オンラインシステムにより中央感染症情報センターへ電送する。また地研から送付された検査情報については、直ちに中央感染症情報センターに報告をする。
地方(基幹地方)感染症情報センター:1〜3類感染症と同様。
中央感染症情報センター:都道府県等の本庁から送られた患者情報を速やかに集計し、分析評価して全国情報として1〜3類感染症および全数把握4類感染症とともに週報などの方法で都道府県等の本庁に送付する。病原体情報については1〜3類感染症と同様に行われる。
積極的疫学調査:積極的疫学調査は、1〜3類感染症が発生した場合、4類感染症の発生状況が通常と異なる傾向が見られた場合などに都道府県知事等が行えるものとして規定された。実施にあたっては、関係者の理解と協力、密接な連携が必要である。積極的疫学調査に携わる専門家養成のための研修コースを、1999(平成11)年度より国立感染症研究所で開始する。
個人・地域レベルから国のレベルまで、適切な感染症の治療、予防と対策には、疾患と病原体の動きを正しくとらえる質の高いサーベイランスが必須である。そのために各方面の理解と協力をお願いしたい。
国立感染症研究所
感染症情報センター・感染症情報室