The Topic of This Month Vol.20 No.4(No.230)


日本におけるHIV/AIDSサーベイランス(1998年12月31日現在)

厚生省のエイズ動向委員会は2カ月毎に委員会を開き、個票によって報告されたHIV感染者(AIDS未発症者、以下HIVと省略)とAIDS患者(以下AIDSと省略)の確認審査を行い、HIV/AIDSの発生動向を把握、公表している。わが国におけるHIV/AIDS報告システムと情報解析の方法については前回特集に述べられている(本月報Vol.19、No.4、1998参照)。本特集においては、エイズ動向委員会が1998年1年間と1985〜1998年のすべてのデータとを分析してまとめたわが国のHIV/AIDSの発生動向最新情報(凝固因子製剤による感染例を除く)を要約する。

 1.1998年のHIV/AIDS発生状況

1998年にHIVとして報告された者は422人、AIDSとして報告された者は231人であった。

感染経路別では、性的接触による感染例が最も多く、HIV報告の74%、AIDS報告の65%を占めた。国籍・性別では、日本人男性がHIVの62%、AIDSの68%と最も多い(図1)。男女比はHIVが約3:1、AIDSが約6.5:1である。感染地別では、日本人の大半が国内感染(HIV 75%、AIDS 65%)である(図2)。報告地は、東京都その他の関東・甲信越ブロックが最も多く(HIV 75%、AIDS 74%)、次いで近畿ブロックが多い(HIV 12%、AIDS 8.2%)。

 2.1997年報告との比較

1998年のHIV報告は、1997年の報告より25人多く、1993年以来最高の年間報告数を記録した。その内容は1997年同様、日本人男性の国内における性的接触が多く、特に同性間性的接触によるHIVの増加が目立つ。また報告地域は、北海道、東北、関東・甲信越ブロック(東京を除く)および近畿ブロックが前年に比べて増加した。

これに対し、AIDS報告は、日本人男性の同性間性的接触のみが増加したが、他のグループはすべて減り、年間AIDS報告数は減少に転じた(AIDS報告数の減少が、最近急速に使用され始めた抗HIV薬の多剤併用療法の効果によるものなのか、あるいは他の原因によるものなのかは今のところ明らかでない)。

 3.1985年〜1998年12月31日までの累積報告数と発生動向

 1)HIVの年間報告数は、1992年のピーク後減少したが、1995年以降一貫して増加傾向にある(図3)。AIDSの年間報告数は1997年までは増加を続けたが、上述したように1998年に初めて減少に転じた。HIVの増加は、日本人男性の国内感染例の増加によるもので、日本人女性、外国人男性・女性では過去5年間、横這いないし減少の傾向にある。外国人の割合は、HIV、AIDSともに1998年で約30%であるが、過去5年間、HIVでは漸減傾向、AIDSでは30〜50%でほぼ一定している。

 2)1998年12月31日までの累積報告数は、HIV 2,913、AIDS 1,286であるが、この他に凝固因子製剤による感染例が全国調査によって確認されている(1998年7月13日時点;HIV 1,434、AIDS 631)。凝固因子製剤感染例以外の感染経路別にみると、性的接触によるHIV感染が最も多く(異性間48%、同性間24%)、静注薬物濫用、母子感染によるものはいずれも0.7%と低い(図4)。AIDSもほぼ同様の割合を示した。

感染経路別分析結果の第一の特徴は、日本人のHIVが、男性の同性間性的接触で急増している他、感染経路不明例も増加傾向にあることである(図5a)。その割合は1998年には約16%に達した。感染経路不明例は特に外国人に多く、例年、外国人HIVの約40%前後を占めている(図5b)。さらにAIDSでは、外国人の約50%、日本人の20%以上が感染経路不明例である。

 3)感染地別では、HIVにおいて、日本人男性の国内感染と感染地不明例が増加を続け、外国人男性の日本国内での感染が増加傾向にあることが注目される。

 4)日本に滞在する外国人の世界地域区分別の解析結果では、HIV、AIDSともに南・東南アジアから来日した者が最も多く、次いでラテンアメリカ、サハラ以南アフリカが多い。

 5)年齢分布は、HIVでは国籍にかかわらず、男性では25〜34歳、女性20〜29歳にピークが見られる。AIDSでは、日本人男性の40〜49歳が特に多く、日本人女性のピークは25〜39歳にみられる。

 6)AIDS報告における指標疾患の分布

日本人と外国人のAIDSの累積報告数(各925と361)を分母として、各指標疾患の分布を調べた結果、両群とも類似しており、ニューモシスチス・カリニ肺炎が約40%と最多で、カンジダ症、HIV消耗性症候群がいずれも10%台を占めることが判明した。両群では活動性結核に差が認められ、日本人では6.7%、外国人では14%と約2倍である。

 7)献血者の抗体陽性率は、2年(1997、1998年)連続して10万件当り0.9に達し、依然として検査目的の献血や、HIV感染を自覚していない献血者が多いことを示唆している。このような状況下ではウインドウ期の献血の紛れ込みが懸念される。

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