わが国における腸炎由来Campylobacter jejuni血清型の検出動向および散発下痢症由来C. jejuniのキノロン剤に対する耐性菌の出現−カンピロバクター・レファレンスセンター
1988年からわが国における腸炎由来C. jejuni血清型の検出動向を調査する目的で衛生微生物技術協議会の7つの支部センター(秋田県、東京都、愛知県、大阪府、広島県、山口県、熊本県)では、Liorシステムによる型別方法により、国内で発生した集団および散発由来のカンピロバクター腸炎から分離された菌株の血清型別に係わるレファレンスサービスを行っている。本号では、1996年6月〜1998年5月までの活動で集積された型別結果の概略および薬剤感受性試験の結果について紹介したい(1988〜1996年5月の成績については本月報Vol.16、No.7&Vol.18、No.4を参照)。
血清型別:各支部センターにおいて、型別に供された菌株は総計1,753株で、このうち590株は集団食中毒51事例に、また残りの1,163株は散発下痢症に由来する。これらの主要検出血清型を表1に示した。集団事例では検討した51事例のうちいずれかの血清型に型別されたものは46事例で、このうち23事例は単一の血清型、残りの23事例は複数の血清型によるものであった。検出率の高い血清型は、LIO 7が19事例(37%)、LI0 2が8事例(16%)であった。特にLIO 7は最近増加が認められている。
散発事例由来株では、供試した1,163株中731株(63%)が型別可能であり、本システムで採用した30血清型のうちの28血清型にわたっていた。その中では、従来から高頻度に検出されているLIO 4が最も多く、LIO 7 、LIO 1、LIO 2等が続いたが、分離株数が1株という血清型も5種含まれていた。また33株は、同時に複数の因子血清に反応する株であった。
薬剤感受性試験:近年、キノロン系抗菌剤に対して耐性を示すC. jejuniが増加していることが欧米諸外国で問題となっており、本レファレンスグループでも3年前より耐性菌の動向調査を行っている。ここでは、1997年分のキノロン剤および第一次治療薬として汎用されているエリスロマイシン(EM)の薬剤感受性試験結果を報告する。各支部センターで行った結果について表2にまとめた。供試菌株は散発下痢症由来C. jejuni 422株、供試薬剤は、NFLX、OFLX、CPFX、NAおよびEMの5薬剤を用いた。方法は菌株をBHIブイヨンで培養し、その培養液をミューラーヒントン寒天平板(Oxoid)塗抹後、センシディスク(BBL)を置き2日間微好気培養して阻止円を測定するK-B法によった。その結果、供試菌株422株中5薬剤すべてに感受性の株は277株(66%)であった。EMは治療薬に使用しているにもかかわらず、その耐性菌の出現率は3.3%(14株)と低かった。一方最も出現率の高い耐性パターンは、NFLX・OFLX・CPFX・NAの4剤耐性であり、113(27%)が該当した。2剤耐性5株、3剤耐性10株およびNFLX・OFLX・CPFX・NA・EMの5薬剤耐性6株をあわせるとキノロン系薬剤に多剤耐性を示すものは134株(32%)であった。また、キノロン薬剤耐性株は単剤よりもむしろ複数のキノロン薬に耐性となる傾向であった。
1993〜94年の2年間に東京都内で分離されたC. jejuniのキノロン剤に対する薬剤感受性試験を行った際には、その耐性頻度は15%であったので、その成績と比較しても耐性菌の増加が顕著となってきた。家禽、家畜等の疾病治療に用いられた抗生剤あるいは飼料に添加された薬剤により動物が保菌しているC. jejuniが耐性化することも考慮しなければならない。
C. jejuniやC. coliなどはNA(30μg)に感受性であるが、C. lariやC. fetusなどは同薬剤に耐性であることから、NA感受性がカンピロバクターの同定の“キー”性状として広く利用されてきた。しかし、今回の結果からNA感受性はC. jejuniの絶対的性状でなくなってきている。したがってC. jejuniの同定の際には、NA耐性株が存在することを十分考慮しなければならない。これを補う試験として、酢酸インドキシル加水分解試験の併用が薦められる。キノロン剤耐性C. jejuniの増加は世界的な傾向であり、今後とも本レファレンス部会では耐性菌の動向調査を進めていく必要がある。
カンピロバクター血清型別レファレンスグループ
秋田県衛生科学研究所
東京都立衛生研究所
愛知県衛生研究所
大阪府立公衆衛生研究所
広島県保健環境センター
山口県衛生公害研究センター
熊本県保健環境科学研究所