高等学校の調理実習で発生したカンピロバクターによる集団食中毒事例−大阪府

1997年4月下旬に、大阪府内の高等学校において、Campylobacter jejuni(C. jejuni)による集団食中毒が2件発生した。いずれも数日前に家庭科調理実習を実施しており、献立には親子丼が含まれていた。

事例1:4月28日に府教育委員会から、4月26日昼頃より2年1組の生徒41名中9名が、発熱、腹痛、下痢等の食中毒症状を示しているとの通報があった。うち1名は血便を呈したため医療機関に入院し、29日に同医療機関より、カンピロバクターを検出したとの報告があった。保健所の調査で、3クラス116名中33名(1組:26/41、2組:3/36、3組:4/39)が25日から同様の食中毒症状を呈し、24日、25日、28日にそれぞれのクラスが調理実習を実施したことが判明した。

患者の主症状は下痢(平均4回、70%)、腹痛(49%)、嘔吐(15%)、発熱(平均38.7℃、36%)、頭痛(39%)であった。5月1日から検便28検体、調理室流し等のふきとり7検体、残品の鶏肉1検体の細菌検査を実施した。検便7検体からC. jejuniを分離し、本事例は同菌による食中毒と断定された。ふきとり、食品残品からはC. jejuniは分離されなかった。分離菌株の血清型(カンピロバクター・レファレンスセンターの型別血清を用いて実施)は医療機関で分離された1株を含め、TCK26(6株)、TCK1/26(1株)、型別不能(1株)であった。すべての株はナリジクス酸(NA)感受性、セファロチン(CET)耐性であった。

患者発生状況や喫食状況を検討した結果、共通食は4月24日、25日、28日に実施された調理実習時の昼食のみであり、その調理食品が原因食と断定された。潜伏期間は1〜4日で平均74時間であった。実習は8班に分かれ、それぞれが親子丼、すまし汁、ほうれん草のごま和え、わらび餅を調理した。発症率の高い1組は全班に有症者がいた。調理食品はすべて喫食されたため、献立別の詳細な解析は実施できなかった。親子丼の鶏肉は教諭の指導により、十分加熱されていたと思われる。このため鶏肉由来の原因菌が包丁、まな板等を介しておひたし等の食品に二次汚染した可能性が考えられる。

事例2:5月8日に高等学校から保健所に、4月24日夜より2年生の1クラス40名中2名が、発熱、腹痛、下痢等の食中毒症状を示し、うち1名から医療機関で食中毒菌らしい菌が検出された旨の通報があった。保健所の調査の結果、4クラス159名中21名(1組:3/40、2組:5/39、3組:6/40、4組:7/40)が同様の症状を呈しており、これらのクラスでは4月23日と25日の午前と午後、計4回に同一献立(親子丼、ほうれん草のおひたし、豆腐ワカメのみそ汁)の調理実習を行っていることが判明した。

患者の主症状は、下痢(平均5回、 100%)、腹痛(91%)、嘔吐(14%)、発熱(平均38.3℃、57%)、頭痛(52%)であった。事例1と同様、頭痛の発症率が高く、受診先で風邪と診断された者も多かった。5月9日、検便16検体の細菌検査を実施し、2検体からC. jejuniを分離した。医療機関でも2名からC. jejuniが分離されたため、同菌による食中毒と断定された。当所で分離した菌株の血清型(カンピロバクター・レファレンスセンターの型別血清を用いて実施)は、LIO 7(1株)、LIO 7/17(1株)であった。LIO 7/17株はLIO 17血清よりLIO 7血清に強く凝集した。両菌株ともNAとCETに耐性であった。本事例では発症後12日目の検便からでもC. jejuniが検出された。

患者発生状況、喫食状況を検討した結果、共通食は4月23日、25日に実施された調理実習時の調理食品だけであり、それが原因食と断定された。潜伏期間は30時間〜5日で、平均88時間であった。159名中155名がすべての調理食品を喫食したため、詳細な解析は実施できなかった。

当所の収去検査で、国内産鶏肉から高率に(40%)カンピロバクターを分離している。事例1と2はいずれもC. jejuniが原因菌であり、食材の鶏肉が食中毒発生の原因になったと考えられる。両事例とも調理器具の使い分けや手指の消毒が不完全であった。このため他の食品への二次汚染が原因となった可能性も高い。

最後に資料を提供していただいた寝屋川保健所、富田林保健所、食品衛生課の関係者の方々に感謝いたします。

大阪府立公衆衛生研究所食品細菌課
久米田裕子 河合高生 川津健太郎
依田知子  浅尾 努 濱野米一
石橋正憲  塚本定三 柴田忠良

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