サラダを原因とする特別養護老人ホームで発生した腸管出血性大腸菌O157:H7による集団感染事例−山口県

事件の概要:1998(平成10)年11月16日、医療機関から特別養護老人ホームの入所者14名が腹痛および血便を主徴とする症状で来診したとの届け出が所轄の保健所になされた。翌11月17日、患者からの分離菌株が腸管出血性大腸菌(EHEC) O157(VT2産生)と同定され、集団感染症として原因究明等の調査が開始された(表1)。

感染源の究明:冷凍保存された11月2日〜11月13日までの約2週間分の検食とその食材、および施設の環境材料等合計628検体が菌の分離検査に供試された。

検査は、菌の凍結損傷を考慮し、試料25gにトリプトソイブイヨンを225ml添加混合し、37℃6時間培養後、これを免疫磁気ビーズ法(1ml)(以下ビーズ法)による分離に供試するとともに、この培養液10mlをノボビオシン加mEC培地90mlに添加し、42℃で18時間培養した。残りのトリプトソイブイヨン培養液は引き続き37℃で12時間培養した。その後、それぞれの増菌培養液はビーズ法による分離を行った。分離用培地としてはクロモアガーとCT-SMACを用いた。その結果、11月10日の夕食に提供されたサラダからEHEC O157:H7が分離された。菌が分離された培養条件はトリプトソイブイヨン37℃18時間増菌培養後ビーズ法によるクロモアガーおよびCT-SMAC培地からのものであり、トリプトソイブイヨン37℃6時間培養後のビーズ法およびノボビオシン加mEC培地による増菌後のビーズ法では分離することができなかった。

さらに、これらの増菌培養液を蛍光免疫測定法(ミニバイダス)により測定したところトリプトソイブイヨンによる18時間増菌培養液の測定値は0.22で陽性値を示し、ノボビオシン加mEC培地による増菌培養液の測定値は0.00で陰性値を示した。検食等の凍結保存による菌の損傷を考えると非選択的増菌培養法の併用が必要であると考えられる。

サラダからの分離菌株と患者からの分離菌株の一部は国立感染研においてパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子型別が実施され、これらはすべて同一型(感染研の分類による;IIIb、V'、III)であることが確認されたこと、および食品の喫食状況等の疫学的調査の結果からサラダが原因食品と断定された。

原因食品のサラダからの分離菌株と患者からの分離菌株の一部について行った制限酵素XbaI処理によるPFGEパターンを図1に示す。なお、サラダの構成食材は大根、レタス、わかめ、マグロの油づけ、ノンオイルドレッシングであったが、これらの食材から菌は検出されず汚染経路は特定できなかった。分離菌株の抗生物質感受性試験(K-B法)では使用薬剤(ABPC、 SM、 TC、 CPX、 KM、 CTX、 ST、 CP、 TMP、 GM、 NA、 FOM)に対してすべて感受性であった。

山口県環境保健研究センター生物学部
冨田正章 片山 淳 岩崎 明 宮村惠宣

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