川崎市で分離されたアデノウイルス7型の遺伝子型

川崎市において、初めてアデノウイルス7型(Ad7)が分離されたのは1996年5月で、以来、1999年3月までに49株(1996年5株、1997年40株、1998年4株)が分離されている。Ad7が分離された患者の臨床症状は軽い上気道炎から、咽頭結膜熱および無菌性髄膜炎、重症例では肺炎やウイルス関連血球貪食症候群(VAHS)を併発した脳症等が認められた。流行形態は散発例だけでなく、幼稚園や家族内での集団感染がみられた。このようにAd7は疫学的に多様で、他の血清型のアデノウイルスに比べて重症例から多く検出されている。日本で分離されているAd7の遺伝子型はAd7dタイプが主流とされているが、南米で流行し、病原性が強いとされるAd7hタイプが、最近日本で分離されている。そこで、川崎市で分離されたAd7がどの遺伝子型に属するのか調査するため、制限酵素を用いた遺伝子の切断を行った。

調査に供した分離株は27株で、その内訳は年別に1996年2株、1997年21株、1998年4株で、臨床症状別では上気道炎(インフルエンザ様疾患を含む)6株、咽頭結膜熱9株、無菌性髄膜炎2株、感染性胃腸炎1株、下気道炎8株、VAHSを伴う脳症1株であった。これらをHEp-2を用いて再度培養し、CPEの確認された細胞を回収し、フェノール、クロロホルムでウイルスDNAを抽出した。制限酵素には6塩基を認識するBamHI、HindIII、SmaI、BstEIIの4種類を用いた。

その結果、各制限酵素の反応で27株すべてが同一の切断パターンを示した(図1)。遺伝子型はBamHIによる分類からAd7dのタイプで、BstEIIのパターンから、1995年以降に日本各地で流行しているAd7d変異タイプであることが確認された。

Ad7感染の特徴は、先天的疾患を持つ患者や低年齢層で重篤な症状が認められることである。川崎市で1997年6月に発生した家族内感染の事例では、兄(4歳)は上気道炎に胃腸炎が併発する程度であったが、弟(1歳)は症状が重く、咽頭結膜熱から肺炎を併発し、酸素テントでの呼吸管理による長期の入院が必要であった。この兄弟から分離されたAd7は同じd(変異)タイプであることから、同じ遺伝子型でも個体差によって臨床症状に違いが見られ、家族内にAd7の感染者がいる場合は、特に乳幼児との接触に注意する必要があると考えられた。なお、hタイプについては検出されなかったが、今後、流行する可能性があり、その動向に注目したい。

川崎市衛生研究所 清水英明 平位芳江
京畿道保健環境研究院 朴 抱鉉

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