免疫クロマトグラフィーによるアデノウイルス呼吸器感染症の診断
アデノウイルスは呼吸器ばかりでなく眼や消化器まで幅広い感染症を起こす。診断には血清抗体測定や分離培養以外に最近ではラテックス凝集法、蛍光免疫法、酵素抗体法、PCR法などが用いられるが、ラテックス凝集法以外は迅速性はなく外来で迅速に診断するのには適さない。また、ラテックス凝集法は感度の点で十分とはいえない。
アデノウイルスの上気道炎では、高い発熱を伴ったり、細菌感染症を疑うような炎症所見(白血球増多と核の左方移動やCRP高値)を伴うことが多い。そこで、最近の薬剤耐性菌の増加に伴い問題となっている不必要な抗菌薬の投与の大きな原因となっている。
さらに、最近日本では重篤なアデノウイルス7型症例の増加が問題となっている。したがって、外来でもできる簡便かつ迅速なアデノウイルス診断用キットの開発が望まれる。我々は、約10分で結果の出る免疫クロマトグラフィー(以下IC)を使用した簡便なキット(ICテスト、明治乳業)が開発されたので、臨床的有効性を培養法と比較し、また、抽出ウイルスを用いて従来のEIA法と感度比較をした。
方法:1997年6月〜1998年1月の間に当院外来を受診し、アデノウイルス上気道炎が疑われた38℃以上の発熱児(7カ月〜10歳、平均3.4歳)63人を対象とし、咽頭スワブを2本同時に採取しIC testと分離培養を行った。検体は2〜8病日に採取した。63人の診断は咽頭炎(23人)、滲出性扁桃炎(29人)、咽頭結膜熱(11人)であった。ICテストは主治医が添付の説明書にしたがって検体採取後すぐ1本の咽頭スワブを使って外来で行い、10分後判定した。分離培養は、もう1本の咽頭スワブを検体採取後すぐ輸送培地に入れ4℃で保存し、SRLで24時間以内に行った。分離培養には、HEp-2細胞、HE細胞、MA細胞を用いた。
また、アデノウイルス(Ad)3、Ad4、Ad7、Ad19、Ad37の5血清型のウイルスをHEp-2細胞で培養後、塩化セシウムの濃度勾配を利用して抽出したウイルスを用いて、アデノクローン(Cambridge Bioscience社)とIDEIA Adenovirus(DAKO Diagnostics社)との感度比較を行った。
結果:アデノウイルスは63人中26人から分離された。血清型は、Ad3が18例、Ad1が6例、Ad2が1例、Ad19が1例であった。この26人の分離陽性例中23人(89%)でICテストが陽性であつた。ICテストの偽陽性は見られなかった。したがって、感度は89%(23/26)で、特異度は 100%(37/37)であった(表1)。血清型で特に感度に差は見られなかった。また、病型別にも特に感度に差はなかった(表2)。
抽出したウイルスによる感度比較では、すべての血清型でICテストはアデノクローンより8〜32倍、IDEIA Adenovirusより2〜8倍感度が良かった。
考案:ICテストは非常に迅速かつ感度も特異度も優れていた。また、特別な施設や器械も要らず、臨床家の日常の診療に非常に役立つと思われた。このような簡便なテストであれば、現在世界中で問題となっている不必要な抗菌薬の使用を改善するのに一役を担えると思われる。また、アデノウイルスは院内感染をおこすことで有名であるが、とくに最近日本で増加している重篤なアデノウイルス7型の流行を考えると迅速なICテストは院内感染をコントロールするのに役立つことが期待できる。
済生会下関総合病院小児科 尾内一信