東京都内における下痢症由来腸炎ビブリオ血清型O3:K6の出現推移
東京都内で患者発生が認められた過去7年間の腸炎ビブリオ食中毒の原因菌の血清型について、年次ごとにその推移を検討した(表1)。1992(平成4)年〜1998(平成10)年の腸炎ビブリオ食中毒の事例数は、1992年が26事例、1993年が24事例、以下41事例、60事例、66事例、78事例、107事例と年々増加し、1998年は過去7年間で最も多い年であった。
各年の原因菌の血清型のうち、最も多く検出された血清型は1992年がO1:K56、1993年〜95年までがO4:K8、1996年〜98年がO3:K6であった。このように、1993年〜95年までの主要血清型はO4:K8であったが、1995年からO3:K6が増加し始め、1996〜98年では本血清型菌がその大半を占めた。
O3:K6が検出された食中毒事例数の推移をみると、1992年には1事例も認められなかったが、1993年および94年は各1事例、そして1995年から著しい増加が認められた(表2)。すなわち、1995年は60事例中10事例(17%)、1996年は66事例中34事例(52%)、1997年は78事例中60事例(77%)、1998年は 107事例中72事例(67%)と、1996年以来起因血清型の大半を占めている。通常、腸炎ビブリオ食中毒では、その原因菌の血清型は、1事例の中で複数検出されることが多いが、O3:K6による事例では多くの場合、本血清型が単独に検出された。
また、本血清型菌の溶血毒産生性は、表2に示したとおり1993年の1事例は非産生株であったが、1994年の1事例、1995年の10事例中9事例はTRH産生菌によるものであった。そのうちの1事例では毒素非産生菌も同時に検出された。一方、1996年の34事例では前年とは毒素産生性が著しく異なり、TRH産生菌によるものは1事例のみで、33事例がTDH産生菌によるものであった。1997年では60事例すべてがTDH 産生菌によるものであったが、うち2事例では、TDH産生菌とTRH産生菌の両方が検出された。1998年は毒素非産生菌の1事例を除き、71事例がTDH産生菌によるものであった。
このように1995年以来、血清型O3:K6菌による食中毒が多発しており、しかも本菌の産生毒素が1996年を境にTRHからTDHに変化しているのが大きな特徴である。
さらに、血清型O3:K6菌を制限酵素NotIで消化した後、パルスフィールドゲル電気泳動法によるDNA解析を行った結果、TDH産生菌とTRH産生菌は、全く異なったパターンを示したが、各溶血毒産生菌の中では泳動パターンはほぼ一致していた。
今後も本血清型菌の動向に注目していく必要がある。
東京都立衛生研究所微生物部細菌第一研究科
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