腸炎ビブリオ食中毒の発生状況−神奈川県

最近、腸炎ビブリオ食中毒の発生件数に増加傾向が見られ、なかでも血清型O3:K6による事例が急増している。ここでは神奈川県において集計した1993(平成5)年〜1998(平成10)年の食中毒発生状況、特に腸炎ビブリオ食中毒を中心に報告する。

病因物質別に神奈川県における各年の食中毒発生件数を示した(表1)。食中毒事例において、患者から何らかの腸管病原菌が検出された事例数の割合は、1993年70%、1994年71%、1995年89%、1996年78%、1997年77%、1998年81%で、各年とも発生件数に占める細菌性食中毒の割合が極めて高率であった。細菌性食中毒のうち、腸炎ビブリオ食中毒の発生件数および割合は、1993年5件(26%)、1994年12件(44%)、1995年15件(48%)、1996年8件(29%)、1997年17件(50%)、1998年26件(48%)で、1996年に発生件数および割合ともに一旦減少したものの、1993〜1998年の発生件数には漸増傾向が見られる。

腸炎ビブリオ食中毒の原因施設は、寿司店および鮮魚介類を扱う飲食店がほとんどであった。各年の患者数別発生件数(表2)を見ると、患者数10人以下、11〜20人、21〜30人であった事例が1993〜1998年の間の83事例中各々44事例(53%)、15事例(18%)および10事例(12%)で、全事例の約80%が患者数30人以下であった。このように本菌食中毒の発生は比較的小規模に限局する傾向にある。また、発生要因は、そのほとんどが調理施設における鮮魚介類の取り扱いに起因したもので、食材の温度管理が十分でなかったことおよび調理器具等を介した他の食品の二次汚染が主であると推測された。

分離された腸炎ビブリオ菌株の血清型を示した(表3)。分離株の血清型が確認できた50事例中16事例から複数血清型が分離され、その内訳は血清型4種類、3種類、2種類が各々3事例、2事例および11事例であった。本50事例中3事例以上から分離された主な血清型は、O1:K56、O1:K60、O2:K3、O3:K6、O3:K7、O4:K8で、なかでもO3:K6およびO4:K8の分離例が多く見られた。しかしO4:K8が1995年までの主要血清型であったのに対して、O3:K6は1997年に急増し、さらに1998年も流行が継続した。1997年は7事例中6事例がO3:K6による事例であった。1998年には食中毒事例から10種類の血清型菌が分離されたが、O3:K6による単独事例に加えO1:K56、O2:K3、O3:K68、O4:K9およびO4:K12の各々はO3:K6との同時分離例であった。1997年以降、腸炎ビブリオ食中毒のほとんどにO3:K6が関与していた。

今後、腸炎ビブリオ血清型O3:K6の出現動向を監視するとともに、沿岸海域および魚介類等の自然環境中における本血清型菌の分布状況を詳細に検討する必要がある。

神奈川県衛生研究所
沖津忠行 松島章喜 山井志朗

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