A群ロタウイルスが検出された食中毒様胃腸炎の集団発生事例について

1999(平成11)年1月23、24日に神奈川県湯河原町の海浜公園で、ゆがわら農林水産まつりが行われた。翌日より小児科医院を受診する下痢症患者が増加した。その患者はほとんどがこのまつりの参加者であったことから保健所では食中毒を疑い、聞き取り調査等を行うとともに、得られた糞便について細菌検査を行った。またウイルス検査については当衛生研究所で行った。

まつり会場での患者の主な摂食食品は、みそおでん、焼そば、焼き鳥、とろろそば、ラーメン、カニ汁、わた菓子等であった。しかしすべての患者に共通の原因食品はなかった。確認された患者数は132名で、主な症状は下痢108名(82%)、嘔吐105名(80%)、37℃以上の発熱65名(49%)であった。

保健所で行われた細菌検査では、食中毒の原因細菌は検出されなかった。1月29日に採取された糞便17検体と1月30日に採取された糞便16検体の合計33検体を用いてA群ロタウイルス検出用ELISA(ロタクロン)を行った。1月29日の検体では17検体中7検体(41%)、1月30日の検体では16検体中4検体(25%)、合計33検体中11検体(33%)からA群ロタウイルスが検出された。さらにアデノウイルス検出用ELISA(アデノクロンE)を行ったところ、1月30日のA群ロタウイルスが検出された1検体からアデノウイルスが検出された。A群ロタウイルスの検出された患者の年齢は1歳〜12歳ですべてが小学生以下の子どもであった。そこでA群ロタウイルスの核酸の解析と血清型別を行った。A群ロタウイルスの核酸はポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)によりロングパターンとショートパターンに区別できることがわかっている。さらにA群ロタウイルスは二重殻の球状粒子の外側に位置するVP7の抗原特異性から主に1〜4型の血清型に分けられ、1、3、4型はほとんどがロングパターンで、2型はショートパターンを示すことが知られている。そこでA群ロタウイルスの検出された糞便のうち9検体についてウイルスRNAを抽出し、PAGEと銀染色を行った。その結果、電気泳動像がロングパターンを示したものが8検体(89%)あり、1検体はショートパターンを示した。つぎに1〜4型のA群ロタウイルスに対するモノクローナル抗体を用いて血清型別を行ったところ、ロングパターンを示した8検体はすべてが1型を示し、ショートパターンを示した1検体は2型であることが確認された。

今回の胃腸炎の感染推定場所であるまつりの会場は子どもが集まり、子ども同士の接触の機会が多いことから、ロタウイルス感染を広げた可能性が大きいと推察された。さらに血清型の異なる2種類のA群ロタウイルスが関係したと考えられた。これらのことから、この事例は食中毒ではなく、A群ロタウイルスによる集団胃腸炎であることが判明した。

最後に資料を提供していただいた神奈川県衛生部生活衛生課および小田原保健福祉事務所の方々に感謝いたします。

神奈川県衛生研究所
原 みゆき 古屋由美子 片山 丘
吉田芳哉  今井光信
国立感染症研究所 長谷川斐子
国立公衆衛生院  西尾 治

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