小型球形ウイルス(SRSV)によると思われる大規模食中毒事例−岐阜県
SRSVによる食中毒シーズンから少しずれた時期、1998年5月に岐阜県内で仕出し給食弁当が原因と思われる大規模な食中毒事例が発生したのでその概要を報告する。
食中毒概要:5月27日に管轄保健所に届出られ、調査が開始された。患者は、同一施設で調理配膳された給食弁当を摂食しており、摂食者2,889名中1,196名が発症(41%)し、主要症状は、腹痛(96%)、下痢(79%)であった。患者発生は5月25日〜27日までの3日間であり患者発生のピークは26日の夕方〜27日の明け方にかけてみられた。摂食日は給食弁当の提供された25日と26日が疑われた。
食中毒起因病原体検索は、管轄保健所で細菌検索が行われたが既知病原体は検出されなかった。摂食した仕出し給食弁当にはカキは含まれていなかったが、SRSVの検査のため保健所より検査検体が当所に搬入された。
検査材料および方法:検査材料は、患者糞便検体14、従業員糞便検体2、使用井戸水、食品7種類(検食および弁当残品)が搬入された。
ウイルス検査は、糞便検体、使用井戸水、食品についてSRSV検査をRT-PCR法(35'/36、NV81/82 ・SM82プライマー系)を用いて実施し、SRSV遺伝子が検出されたものについてはマイクロプレートハイブリダイゼーションにより確認検査を実施した。糞便材料についてはさらにロタウイルスA・C群の検査を逆受身血球凝集法を用いて実施した。糞便検体の一部は電子顕微鏡検査(EM)を実施した。
検査結果:ウイルス検査状況を表1に示した。16人の糞便材料中14(患者12、従業員2)よりNested PCRでSRSV遺伝子が検出され、確認検査ではGenogroupII(G2)プローブに反応した。井戸水および食品からはSRSVは検出されなかった。
Nested PCR時のNV81/82とNV81/SM82のSRSV遺伝子の増幅効率を比較するとNV81/82(13)よりNV81/SM82系(14)の増幅がわずかながら良かった。
まとめ:患者および従業員の糞便から88%と高率にSRSV遺伝子(G2)を検出したことからSRSVによる食中毒であろうと推定された。しかしながら、食品、井戸水からはSRSV遺伝子は検出されず、感染源の特定はできなかった。増幅SRSV遺伝子の詳しい塩基配列は現在検討中であり、患者と従業員の因果関係は不明である。
最後に電子顕微鏡検査のご指導を賜りました愛知県衛生研究所の小林先生に、またご助言を賜りました岐阜県生物産業技術研究所の川本先生に深謝いたします。
岐阜県保健環境研究所 猿渡正子 所 光男
岐阜県大垣保健所
河田正史 中山 潔 清水栄治
岐阜県関保健所 小林香夫