日本紅斑熱の臨床所見と治療

臨床所見:1984年〜1998年12月までに徳島県で発生した34例の日本紅斑熱患者の臨床像について記載する。

症例は男性10例、女性24例。年齢は4〜78歳、しかし、大部分(82%)は50〜70歳であった。

野山に立ち入りマダニと接触の機会の後2〜8日で発症している(潜伏期)。

本症は定型的には急激に発症し、頭痛28例(82%)、高熱34例(100%)、悪感30例(88%)を訴える。また、特徴ある紅斑34例(100%)やマダニによる刺し口(eschar)31例(91%)を認める。ほとんどの患者は強い倦怠感31例(91%)、ときに関節痛、筋肉痛、四肢のしびれ感などを訴える。

他覚的所見としては、高熱、発疹、刺し口が3徴候である。急性期には悪感を伴う高熱があり、熱型は弛張熱である。重症例では40℃を超える高熱が数日持続する。病気の経過中の最高体温は、38.5℃〜40.8℃(平均39.5℃)で、ツツガムシ病の最高体温が38.5℃〜39.1℃と報告されているのに比してやや高く重症感がある。

突発的に、または2〜3日不明熱が続いた後に、高熱とともに特徴的な紅斑が手足、手掌、顔面に出現する。米粒大〜小豆大の辺縁不整の紅斑で痛みやかゆみを伴わないのが特徴で、初期にはガラス圧により消退する。この紅斑は数時間で全身に広がるが、体幹部よりは四肢に多い傾向にある。手掌部の紅斑はツツガムシ病では見られない本症に特徴的な所見であるが、数日間で消失するので注意を要する。

本症の紅斑(図2)は3〜4日目頃から一部出血性となり、1週間〜10日目位をピークとし、2週間位で消失する。しかし、出血斑の強い症例では褐色の色素沈着が約2カ月間またはそれ以上残ることがある。

マダニによる刺し口(eschar)(図3)は、手、足、頸部、体幹部等に認められた。刺し口は通常1〜2週間認められるが、小さく浅い刺し口の症例では数日間で消失した。日本紅斑熱の刺し口は、ツツガムシ病のそれに比して一般的に小さく見落としやすいので、注意深い観察が必要である。

その他の所見として、ツツガムシ病のほとんどの症例でみられる所属リンパ節または、全身リンパ節の腫脹は日本紅斑熱ではみられないことが多く、肝・脾の腫脹も少ない。その他、1症例では心臓の肥大を認めた。また、他の地域の症例で、中枢神経の障害で失神発作を認めた症例や播種性血管内凝固症候群(DIC)と多臓器不全を併発し硬膜下血腫を起こした症例も報告されている。

検査成績:一般尿検査では、蛋白、潜血、軽度陽性。血液検査では、赤沈は中等度亢進、白血球数は(3,600〜12,800)とばらつきがあるが減少傾向にあり、比較的好中球増多と核の左方移動が著明である。血小板数も減少傾向にあり(6.8〜35.3X104)、重症例ではDICとなる。CRP強陽性、肝機能(トランスアミナーゼ)の軽度障害がみられる。

日本紅斑熱に特徴的な一般検査所見は乏しいが、臨床症状に比してCRP強陽性、血小板数減少が著明な時には本症を疑う。また、病初期の尿所見から尿路感染症との鑑別が必要である。皮膚生検では紅斑部の壊死性血管炎の病変を示す。

治療:熱性疾患に一般的に使用される抗生物質、ペニシリン剤、βラクタム剤、アミノグリコシド剤等は本症には全く無効である。しかし、ドキシサイクリンやミノサイクリンは著効を示す。

試験管内における各種抗生物質の感受性をみると、R. japonicaに対して最も感受性が高いのはミノサイクリンで、次いでその他のテトラサイクリン系薬となっている。一方、βラクタム剤やペニシリン系薬は全く無効か極めて低い。しかし、ニューキノロン薬はツツガムシ病リケッチアには感受性が無いが、日本紅斑熱リケッチアには感受性を有している。最近、日本紅斑熱の重症例(DIC併発)でミノサイクリンでは治療効果が十分得られず、ニューキノロン薬を併用し治癒せしめた症例を経験した(図1)。リケッチア症の第一選択薬がテトラサイクリン系薬であることに変わりがないが、重症例でニューキノロン剤との併用療法が有用であることが立証されたことは重要と思われる。

本症では病勢が急激に悪化するため、血清学的な診断の結果が出る前であっても、リケッチア症を疑った段階で早期の有効治療を開始することが肝要である。

参考文献
1)Mahara F., Emerg. Infect. Dis., 3:105-111, 1997
2)Mahara F., Rickettsiae and Rickettsial Diseases, 233-239, Raoult D. and Brouqui P. ed., Elsevier, Paris, 1999

馬原医院(徳島県阿南市) 馬原文彦

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