島根県における紅斑熱の発生状況、感染場所

紅斑熱は1984年に徳島県阿南市で馬原によって発見されて以来、鹿児島から千葉県までの太平洋側の地域で発生する地域特性がみられ、現在10県で約200名が報告されているが、なぜか日本海側で唯一島根県に患者発生がみられている。

島根県では1987年に発生して以来に示すように13名が確認されている。発生年は1987年〜1989年の間は、それぞれ1名ずつ確認された後、1995年までは患者発生がみられなかった。そして、1995年から再び毎年1〜3名の報告がみられるようになった。これは我々が確認検査にかかわった数であり、実態ではないかもしれないが、検査はリケッチア感染症の疑いとしての依頼であり、最近症例数が多くなってきたことは地元の医療関係者に、紅斑熱の存在が認識されてきたことも一つの要因かもしれない。今後感染症新法に指定されたことが、患者発生把握にどう影響するのか注目される。

発生地は、島根県東部の日本海に面する島根半島の西側に位置する弥山山系(東西16km、南北2〜5km、6,860ha)周辺の大社町、平田市に限定されている。一方つつが虫病は紅斑熱とは発生地が異なり、弥山山系とは出雲平野を隔てた南部の中国山脈沿いで1985(昭和60)年来約47名が3〜5月と11、12月を中心に発生している。しかし、最近はつつが虫病患者の発生地に広がりがみられ、紅斑熱発生地周辺にも拡大しており、第1号の紅斑熱患者が8年後につつが虫病に罹患した例があり、これまでのように患者の発生地の違いによって検査に使用する蛍光抗体用の抗原を使い分けるのは困難となった。いずれも感染推定地の山野は日常的に農林作業等で立ち入る生活の場であり、居住地が異なる2名も発症1、2週間まえにレジャー等で汚染地帯に立ち入っている。これらの山地に棲息する野ネズミ、ニホンシカ、猟犬等の血中には紅斑熱リケッチアに対して高い抗体保有率がみられている。

患者発生月は5、6月と8〜10月にみられ、マダニ類の孵化時期と山野での農作業等の活動が活発になる時期に相当し、発症年齢は50〜60歳代を中心に小児から高齢者までの幅広い年齢層にみられている。

今後、この地域の野ネズミ、患者から分離している紅斑熱リケッチアと同様に、この山野には少なくとも媒介者と考えられているマダニ類としてオオトゲチマダニ、フタトゲチマダニを優勢種とし、キチマダニ、ツノチマダニ、ヒゲナガチマダニ、の5種類のチマダニ属が確認されており、これらからリケッチア分離を行い、太平洋側のリケッチアとどこが違うのか、何時、どこから来たのか?なぜ島根か?そして日本に存在するのかを明らかにする必要がある。

島根県衛生公害研究所
板垣朝夫 松田裕朋 保科 健

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