高知県における日本紅斑熱患者の発生状況
日本紅斑熱(以下紅斑熱)は1984年に徳島の馬原によって初めて報告され、以来高知、宮崎など各地より発生の報告が続いた。
高知県においては1983年〜1998年までに室戸病院の船戸らによって79例が確認されている(図1)。患者居住地別では室戸市75例、北川村(室戸市の隣村)1例、高知市3例であり、高知市居住の患者3例のうち2例は室戸市で感染したことが明らかになっている。残る1例は高知市での感染と思われ、この患者が室戸市以外で感染したと考えられる初めての例であった。このように高知県における紅斑熱患者は室戸市での感染、発生が多く、風土病的な様相を呈している。一方、つつが虫病の同期間中の発生は9例であり、7例が嶺北地区(大豊町、本山町、土佐町)で、高知市1例、十和村1例であった。紅斑熱が海岸から近い畑、野原、山等で発生しているのに比し、つつが虫病は海岸より遠く離れた山地において発生している(図2)。
高知県の紅斑熱の患者は4月〜11月の間に発生しており、夏場がピークとなっている。つつが虫病は10、11月に発生している。このことから高知県では春から夏に発生するリケッチア症は紅斑熱を念頭においた確認検査が必要であると思われる。我々は室戸市の患者発生場所において紅斑熱を媒介するマダニ(成虫、若虫)の季節的消長を調査したが、患者非発生地と比較すればマダニの生息密度は高い。しかし、室戸市での1年間の採集数をみると、患者発生の多い夏場は少なくなるなど患者発生にはいろいろな要素が絡み合っているものと思われ、マダニおよびマダニの宿主となる動物の生態学を加味して見ていく必要があると思われる。
紅斑熱患者の性別は男性32例、女性47例であった。また、年齢は6歳〜96歳まで広い層で発生していた。これまでに高知県で確認された紅斑熱患者の半数には3徴候の一つとされる刺し口が認められていない。患者発生の多い室戸市では刺し口の有無にかかわらず発病より3〜5日で診断されているが、高知市で確認された3例のうち2例は刺し口が認められず、いずれも発病から10日以上経過してからの診断であった。3徴候のうち刺し口の有無を重視しすぎると診断の遅れを招く恐れがある。我々の行った県下住民における抗体保有率調査では室戸市以外の地域での発生の可能性を含んでおり、県下のどの地域で発生しても直ちに診断、治療が行える態勢をとっておく必要がある。我々もマスコミ等で注意を呼びかけており、徐々にではあるが、医療機関に浸透しつつある。
高知県における患者の血清学的確認は1983〜1995年までは徳島大学ウイルス学教室で、1995年の一部から現在までは高知県衛生研究所で行った。なお、高知県衛生研究所における確認検査は蛍光抗体法により行った。抗原には国立感染症研究所より分与されたR. japonica YH株および当所で分離した田内株を用いた。
1999年も紅斑熱患者発生のシーズンに入り、これまでに6例の患者のペア血清が当所に持ち込まれ、うち3例が紅斑熱リケッチア症と確認された。いずれも室戸市での感染であったが、1例は高知市内在住の3歳の男児であった。両親と室戸の山中でキャンプをしていてマダニに刺された例であった。
高知県衛生研究所
千屋誠造 高橋 信 安岡富久 小松照子 鈴木秀吉