小学校で発生したヒトC群ロタウイルスによる急性胃腸炎の集団発生事例−岡山県

ヒトC群ロタウイルス(Human Group C Rotavirus 以下CHRV)による下痢症の発生はそのほとんどが散発事例であるが、集団発生事例も1988年福井県で国内最初の事例が報告(本月報Vol.9、No.8参照)されて以後10年間に数例(本月報Vol.13、No.8、Vol.14、No.6、Vol.17、No.12、Vol.18、No.12Vol.19、No.11参照)が報告されている。今回岡山県の1小学校で発生したCHRVによる急性胃腸炎の集団発生事例を経験したのでその概要を報告する。

1999年5月21日、県北西部のO町立O小学校の校医から真庭保健所に同校の1、2年生数人が夕方から嘔吐・下痢症状を呈して受診した旨、通報があったため調査が開始された。

その結果、5月15日〜6月3日の間に在籍者210名(各学年1クラス)中76名の患者がいたことが判明した(図1)。学年別発症率は、1年生50%(20/40)、2年生62%(16/26)、3年生32%(12/38)、4年生19%(5/26)、5年生26%(11/42)、6年生32%(12/38)で、1、2年生の発症率が高かった。発症日は患者の32%(24/76)が5月21日に集中していたが、それ以外は5月15日〜6月3日の間に散発的に発症していた。なお、教職員の発症者はみられなかった。

5月15日〜24日に発症した患者20名(1年生6名、2年生9名、3年生1名、5、6年生各2名)について、症状、有症期間等について聴取するとともに、5月24日〜27日(患者の第3〜第12病日に相当)に糞便を採取し、食中毒菌検査およびウイルス検査を実施した。

表1に被検者の臨床症状とウイルス検出状況を示す。主な症状は、嘔吐・嘔気85%(17/20)、下痢・軟便80%(16/20)、発熱55%(11/20)、腹痛40%(8/20)で、有症日数は1〜10日で平均4.8日であった。大部分の有症者は複数の症状を訴えており、単一症状のみであったのは20%(4/20、嘔吐、腹痛各2名)であった。また、低学年児童では、高学年児童に比べて発熱した者が多く、多種類の症状を訴える等、症状がやや重篤な傾向がみられた。

食中毒菌検査では原因と考えられる食中毒菌が検出されなかったため、電子顕微鏡検索を行ったところ75%(15/20)にロタウイルスが観察された。

そこでA群ロタウイルス検出ELISA法(ロタクローン TFB社)を行ったが全例陰性であったため、当センターの葛谷らが開発したCHRV検出RPHA法(デンカ社製)を実施したところ、電子顕微鏡検索陽性例すべてからCHRVが検出された。RPHA価は15名中12名が≧320の高値であり、第4病日以降に糞便を採取した18名中14名が陽性で、最長第12病日の検体からも検出された。CHRVが確認された患者のうち、発症日が最も早かったのは5月15日発症の2年生男児であった。また、下痢を訴えた16名中15名が陽性であったのに対し、嘔吐または腹痛のみの4名は全員陰性であり、CHRVの検出と症状に関連性がみられた。

患者発生が5月21日に集中していたため、学校給食(O小学校は自校調理方式)を原因とする集団食中毒が疑われた。そこで調理従事者5名について患者と同様のウイルス検索を行ったが、全例陰性であった。また、5月17日〜20日に供された献立の一部7品についてCHRV検出用RT-PCRを実施したがすべて陰性であった。調理従事者についてもRT-PCRを実施中であるが、現在のところ感染経路は不明である。

ここ数年全国各地からCHRVによる急性胃腸炎の集団発生事例報告が相次いでおり、今後のCHRVの流行拡大も危惧される。また、1997年5月の食品衛生法省令改正により、食中毒事例の病因物質にウイルスが含まれることとなり、他の下痢起因ウイルスとともにCHRVの検索が必要となった。各地方衛生研究所でのCHRV検査体制整備により散発・集発事例の疫学データを蓄積し、不明な点の多いCHRVの生態、流行状況について明らかにしていく必要がある。

岡山県環境保健センター
濱野雅子 葛谷光隆 藤井理津志
小倉 肇 森 忠繁
岡山県真庭保健所
中山俶槻 結縁栄次 片山健一
光信泰昇 井上康二郎

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