中学校でのパラインフルエンザウイルス3型による集団かぜ−石川県
1999年(平成11)年6月2日、石川県の能登地区にあるA中学校で集団かぜが発生した。この日の患者数は全校生徒109人のうちの1年生を除く37人で、2年生では41人中18人(欠席者無し)、3年生では36人中19人(欠席者6人)であった。
原因究明のために6月2日、3年生の5人の患者について咽頭ぬぐい液を採取しウイルス分離検査を実施した。ウイルス分離用細胞にはトリプシン添加MDCK、トリプシン添加Vero、RD-18Sの各細胞を用いた。その結果、MDCK細胞では2代継代で1人の検体から細胞の伸長化を起こし、モルモット赤血球を凝集するウイルスが分離された。またVero細胞では、検体接種後10日程度で3人の検体(1人はMDCKと重複)から細胞変性効果(シンシチウム形成など)の拡大とともに、モルモット赤血球凝集性のウイルスが分離された。なおRD-18S細胞では変化はみられなかった。上記の状況から分離ウイルスはパラインフルエンザウイルスと考えられたので、同ウイルスの1〜4型抗血清を用いて、分離ウイルス株を抗原とした赤血球凝集抑制(HI)試験を行ったところ、分離ウイルスはすべてパラインフルエンザウイルス3型と同定された。なおパラインフルエンザウイルス3型抗血清のHI抗体価は分離ウイルス株、標準株いずれの抗原に対しても同値であった。
ウイルスが分離された3人を含め検査した5人の患者は、5月31日または6月1日に発症しており、臨床症状は鼻水、頭痛が5人に共通してみられたほか、咳、鼻づまりが各4人にみられた。さらにこれらの症状に加えて下痢、嘔気、筋肉痛、倦怠感を伴った者が各1人みられた。また発熱を呈したのは5人中3人で、最高体温は37.8、38.1、38.5℃であった。
一般にパラインフルエンザウイルス3型の感染は生後早い時期に起き、3歳までに80%以上が感染し、抗体を獲得、その後に再感染も起こるがその症状は軽いとされている。石川県において過去に行ったパラインフルエンザウイルスに関する研究でも、3型に対しては4歳までに98%が抗体を獲得しており、中学生では100%の抗体保有率であることが明らかとなっている。そのような状況下で起きた今回の事例は患者が中学生であること、しかも集団発生であることなどパラインフルエンザウイルス3型感染症としては非常に特異な例と考えられた。なお石川県でのパラインフルエンザウイルス3型感染者発生のピークは6月にあることも前述の研究から明らかとなっているが、今回の事例はこの時期と一致していた。
以上のようなことから今回の流行の背景には、変異などのウイルス側要因の関与も推察されるが、ヒトの感受性、環境要因なども合わせて検討を進めたいと考えている。
石川県保健環境センター
尾西 一 大矢英紀 川島栄吉 庄田丈夫
石川県能登北部保健所
表 佐和 大田良子 上谷博宣