郷土料理を原因としたSalmonella Enteritidisの食中毒事例−愛媛県
愛媛県内の隣接した地域で、ほぼ同時期にSalmonella Enteritidisによる2つの食中毒が発生した。1つの原因食は、愛媛の郷土料理である「たい飯」と推定され、他の事例の原因食も郷土料理である「タイさつま汁」であった。いずれの料理にも生卵が使用されていた。
食中毒の発生状況
事例1「たい飯」による食中毒事例:1999年6月14日〜15日にかけて、四国を旅行していた静岡県や群馬県などの10都県の7グループ232人が下痢や腹痛、発熱など食中毒症状を訴え、うち72人が松山や高知、東京の病院に入院した。各グループの日程やコースは別々だが、全グループとも6月13日、14日両日にかけ宇和島市内の同一レストランで、昼食に「たい飯」を食べており(喫食者数360人)、この飲食店の昼食を介して発生したと断定した。「たい飯」はタイの刺身をご飯に乗せ、生卵の入っただし汁をかけて食べる郷土料理である。
患者の細菌検査の結果、77人からS. Enteritidisが分離された。
事例2「タイさつま汁」による食中毒事例:東宇和郡明浜町の鮮魚店が製造した「タイさつま汁」を購入し、各家庭で喫食した7家族、13人が7月4日未明から嘔吐、下痢、発熱を訴え、うち7人が入院した。患者の共通食品は「タイさつま汁」以外にないことから、「タイさつま汁」を介した食中毒と断定した。この「タイさつま汁」は同店が7月2日に61個を製造し、7月2日〜3日にかけて、4カ所の小売店で36個が販売されたもので、喫食した32家族50人(入院した者21人、1歳〜86歳、男23人・女27人)全員が7月3日〜6日(発症までの平均時間10時間)にかけて発症した。
患者便24件、患者吐物2件、食品残品5件、従業員便6件、包丁等のふきとり15件の細菌培養検査の結果、患者便12件、患者吐物1件、食品残品4件、ふきとり1件からS. Enteritidis が分離された。
さつま汁は愛媛県の郷土料理の一つで、その作り方は次の通りである。麦甘味噌をすり鉢の内側に塗りつけて七輪の炭火で焙る。白身魚を素焼きにして身をとる。魚のアラでだし汁を作る。すり鉢に素焼きの魚肉とだし汁を入れ、すり込み、さつま汁とする。ご飯にかけて食べる。
今回、食中毒の原因となったさつま汁は、通常あまり使用しない生卵(卵の賞味期限は6月30日で期限切れであった)がだし汁に混ぜ合わせられ、また、加熱の調理工程がなかった。さらに、製造後、パック詰め工程までの約11時間、室温に放置(通常は冷蔵庫に保存)され、食品の取り扱いに不備があった。
細菌学的検査結果
事例1の患者便から分離された2株(別個のグループ)と事例2のタイさつま汁、患者便、患者吐物から分離されたS. Enteritidis 3株について、生化学的性状検査、薬剤耐性試験、PFGEによるDNA解析、ファージ型別を実施した。
IDテストEB20とアピ50CHを用いた生化学的性状検査では、5株とも同じ生化学的性状を示した。薬剤耐性試験はセンシ・ディスクを用いて、12種類の抗菌剤(ABPC、TC、CP、SM、KM、GM、CTX、CPFX、FOM、TMP、ST、NA)に対する耐性パターンを観察した結果、5菌株とも同一なパターンを示し、耐性菌は認められなかった。制限酵素XbaIとBlnIを用いたPFGEによるDNA解析では、いずれの菌株とも同一パターンを示した(図)。ファージ型別は感染研へ依頼した結果、5菌株とも4型であった。
以上の結果は両事例の分離株がほぼ同一株であることを示唆しており、共通の感染源が推察された。
愛媛県立衛生環境研究所
田中 博 渡邊和範 大瀬戸光明 淺井忠男 井上博雄
愛媛県宇和島中央保健所 田中雅啓
愛媛県八幡浜中央保健所 松岡 良