川崎市における仕出し弁当によるSalmonlla Infantisの大規模食中毒発生について

1999年6月11日14時、東京都より都内の某事業所で川崎市川崎区の給食施設が調製した仕出し弁当を喫食した51名中21名が10日4時頃から水様性下痢、腹痛、発熱を主症状とする食中毒症状を呈しているとの通報が入った。また、同日14時30分、横浜市からも同様の通報があった。

事件の概要:当日から食中毒調査が開始され、当該施設では老人施設や幼稚園給食用副食も含めて毎日平均6,000食の弁当を調製し、深夜から調製を始め、早朝より川崎市を中心に東京や横浜市内の約700カ所の事業所へ冷蔵設備のないワゴン車で21系統に分かれて配送をしていた。

当該弁当の調製は生鮮野菜以外の食材は、冷凍食品が大部分で、冷蔵解凍し8日の夕方から下処理、9日の午前1時頃より調理を開始し、6時頃から盛り付け、7時頃から各系統に分かれ車に積み込み、配送し、12時頃までに配達を完了する予定になっていた。調製する弁当の種類は、紅、松、レディースランチの3種類が主なもので、このうち紅と松はほとんど同一内容であるが、松が副食で1品程度多くなっていた。レディースランチは紅・松とは内容が異なり、レディース喫食者から患者の発生はなかった。今回の事件で、本市および東京都と横浜市の調査を参考にχ2 検定の結果、推定原因食品は9日に調製した弁当の副食で、目玉焼き、ポークウインナー、カレーもやしが疑われた。なお、喫食者数(販売数)は4,310名、患者数は315名(川崎市70名、東京都186名、横浜市59名)、発病率は7.3%であった。

結果および考察:当所で8月2日からの検食83件、器具および手指ふきとり83件、調理従事者便76件、患者便77件、施設の上水およびグリストラップ下水の合計321件を検査した結果、検食から病原菌は検出されなかったが、患者便57名(74%)、炊飯場排水溝のふきとり1件、グリストラップ下水1件からSalmonella Infantis(SI)が検出された。同時に東京、横浜の患者便からもSIが検出され、本事件の病因物質はSIであると決定された。

本事件では、検食および調理従事者からSIが検出されていないため、疫学的解析を実施する目的で、当該施設から分離したSI、患者から分離したSI、参考株として1997年散発下痢症患者由来SI、1998年河川水定点観測由来SIを用いてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法によるDNA遺伝子解析を行った。制限酵素XbaIで処理し、PFGEを行った結果は写真に示すとおりである。レーンNo.1〜11は炊飯場排水溝ふきとり、グリストラップ下水由来SIをはじめ、市内各区の事業所の患者由来SIで、XbaIによる泳動パターンは全く同一パターンを示した。しかしながら、参考株として用いたレーンNo.12の散発下痢症患者由来SIでは約360kbp、約130kbp、約80kbpの3カ所、また、No.13の河川水由来SI株とは145kbp、約80kbp、約60kbp、約30kbpの4カ所で本事件SIとは明らかな違いがあった。

以上の結果から、本事件は大量調理施設の調製弁当によるSIを原因物質とする食中毒であり、副食の調理過程で一部加熱不十分な状態で弁当箱に調製され、喫食時まで冷蔵されていなかったため、調理時に残存したSIが増殖したものと考えられた。

川崎市衛生研究所
小川正之 佐野達哉 小嶋由香
殿岡弘敏 松尾千秋 本間幸子

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