SRSV中空粒子を抗原とした抗体測定ELISAによって感染経路を推定できた集団食中毒事例−宮崎県

1999年1月に発生した小型球形ウイルス(SRSV)を原因とする食中毒事例で、SRSV中空粒子(Virus-like particle, VLP)を抗原とした抗体測定ELISA を実施することにより感染経路の一部を推定できたので報告する。

1999年1月7日、県内の旅館の宿泊者の間に食中毒様症状を示す患者が発生した。保健所による調査の結果、本事例の原因食は1月5日にA飲食店で調理された仕出し弁当(昼食)と推定されたが、具体的な原因食品は確定できなかった。摂食者は高校生と大学生を中心とした412 名で、患者は241 名に達し、平均潜伏時間は34.1時間、主な症状は嘔気(74%)、下痢(68%)、嘔吐(60%)、腹痛(61%)、発熱(59%)、頭痛(54%)で、平均下痢回数は3回、平均嘔吐回数は4.5回、最高体温の平均は38℃であった。

本事例の発生時期と患者の症状からウイルス性食中毒の可能性も当初から疑われた。また、A飲食店の従業員1名が、1月4日の深夜から患者と同様の症状を呈していたにもかかわらず、調理に係わっていたことが保健所による調査で判明した。このため、電子顕微鏡(EM)によるウイルス粒子の検出と抗体測定ELISAの実施を目的に、患者の便10検体と急性期血清22検体に加え、この従業員を含めた調理従事者の便3検体と血清5検体が搬入された。なお、回復期血清は、2週間後に採取され、搬入された。

便材料についてEMによるウイルス粒子の検出を行った結果、患者10名中7名からノーウォークウイルス様のウイルス粒子が検出され、本事例はSRSVを原因とする食中毒であることが確認された。また、調理従事者からはウイルス粒子は検出されなかった。

一方、最終的に患者5名および調理従事者5名のペア血清が採取され、抗体測定ELISAを行った。抗体測定ELISAは、国立感染症研究所ウイルス第2部から分与された2種類のSRSV中空粒子[rCV16(genogroup I)およびr97K47(genogroup II)]を抗原とし、添付のマニュアルに準じて実施した。また、被検血清は1:200、1:800、1:3,200に希釈して固相化抗原に反応させ、二次抗体としてHorseradish peroxidase標識抗ヒトImmunoglobulinヤギIgGを、基質としてOPDを用いた。結果の一部をに示したが、患者4名および症状を呈した従業員を含む調理従事者3名のペア血清で、両抗原あるいはr97K47抗原に対する抗体の上昇がみられ、いずれにおいてもその上昇の程度はrCV16に比べr97K47抗原で高い傾向を示した。

摂食調査から原因食品を推定できない場合には感染経路の確認はかなり困難で、業者に対する保健所の行政指導に支障をきたすことが多い。しかし、この事例では、(1)下痢を呈した従業員が原因食の調理に係わったことが判明し、(2)抗体測定ELISAによって、この従業員がSRSVに感染していたことが確認され、(3)やはり抗体測定ELISAによって、患者とこの従業員に感染したSRSVの遺伝子群が同じである可能性が示唆されており、これらのことから、調理従事者による直接的あるいは間接的食品汚染によって食中毒が発生したと推定された。

SRSVによる食中毒が疑われる場合、便とともに患者と調理従事者の血清を採取することを保健所に要請してきた。得られたペア血清を用いて当所では免疫電顕を行ってきたが、ホモロガスなウイルス粒子を得られないために充分に解析できない事例も経験している。今回、免疫電顕に代えて抗体測定ELISA を実施したが、手技が容易で判定も客観的に行え、この方法は有用であると実感した。

最後に、抗原を分与いただいた国立感染症研究所ウイルス第2部・名取克郎先生に深謝いたします。

宮崎県衛生環境研究所 山本正悟 木添和博 吉野修司

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