修学旅行中の小型球形ウイルスによる食中毒事例−千葉県

1999(平成11)年6月中旬、修学旅行としてN市を訪れた千葉県内の小学校3校で、帰宅後急性胃腸炎症状を示す集団発生がみられた。3校は共通してN市の同一施設で昼食をとっていることが判明し、この施設を介した食中毒事件と考えられた。本事件の概要と検査結果を報告する。

概要:小学校3校は、6月20〜21日または6月21〜22日にN市方面に修学旅行に出かけ、いずれも6月21日の昼食をN市T施設でとった。患者発生は6月21日午後から始まり、22〜23日をピークとして25日まで続いた。平均潜伏時間は35時間であった。発病率は児童で61%(174/285)、職員で68%(13/19)であった。臨床症状の発現率は、下痢37%、吐気59%、嘔吐53%、腹痛38%、発熱46%であった。

検査結果:患者33名、調理従事者7名から採取した糞便と、喫食した食品と同一ロットのもの5検体(卵焼き、漬物、ミートボール、コロッケ、春巻き)を検査材料とした。

患者と調理従事者の糞便については、電子顕微鏡(EM)法とRT-PCR法を実施した。PCR法のプライマーは、構造蛋白領域のgenogroup I(GI)、genogroup II(GII)に特異的なものを用いた。患者便では、EM法で16検体から小型球形ウイルス(SRSV)粒子を検出し、PCR法では23検体がGI陽性となった。PCR陽性検体についてダイレクトシークエンスを行ったところ、GIのChiba virus(1987年千葉県内の集団発生から検出)に近似の株であった。調理従事者の便では、EM法で2検体ウイルス粒子を検出し、PCRでは4検体がGI陽性となった。

食品についてはPCR法を実施した。プライマーはポリメラーゼ領域のNV35/36系とYuri22系を用いた。その結果、Yuri22系プライマーで3検体(ミートボール、春巻き、漬物)が陽性になったが、GI・GII プローブ(国立公衆衛生院分与)を用いたマイクロプレートハイブリダイゼーションはすべて陰性であった。

なお、それぞれの検査は、患者については千葉県で、食品については栃木県で、従業員については両県で実施した。

以上の結果から、本事例はSRSV(NLV)による食中毒事件であることが明らかになった。また、調理従事者からもSRSVを検出し、調理従事者を介して食品が汚染された可能性も推察されたが、味見等で原因食を喫食しており、関連性を明らかにすることができなかった。

外国の文献では、調理従事者の手を介して食品がSRSVに汚染され食中毒が起こることが報告されている。SRSV食中毒の予防のため、食品取扱者の衛生教育の徹底が必要と思われる。

今回、食品について行ったPCR法で増幅した遺伝子は、ハイブリダイゼーションをしなかったためSRSV遺伝子とは確認できなかった。しかし、喫食状況の調査からχ2 検定で1%危険率で卵焼きが、Fisher検定で5%の危険率でミートボールが原因食として推定された。

千葉県衛生研究所 篠崎邦子 岡田峰幸 海保郁男
栃木県保健環境センター 内藤秀樹 中尾敦子 中井定子

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