幼稚園で発生したSalmonella Enteritidisによる食中毒事例−神奈川県
1998年、神奈川県茅ヶ崎市内の幼稚園でサンドイッチ弁当を推定原因食品とした患者数234 名のSalmonella Enteritidis(以下SE)食中毒をみたが、本年(1999年)も相模原市内の幼稚園で患者数197名のSE食中毒が発生した。
1999年5月31日、相模原市内のT幼稚園から管轄の保健所に対して、園児の欠席者が5月28日に約80名、31日には約120名に達し、食中毒様症状を発症した多数の園児が近隣の医院を受診している旨の連絡が入った。保健所の調査で、発症者の共通喫食品はT幼稚園内の調理施設で週2回実施されている給食であったこと、さらに発症者が集中した日(5月27、28、29日)等の疫学的状況から、5月25日の給食を原因食品とする集団食中毒と推定された。その後の調査で、喫食者数312名、患者数197名(発症率63%)に達するSEによる規模の大きい食中毒事例であることが判明した。
患者数197名の内訳は、園児191名および教諭6名で、うち6名が入院した。患者の発生日は、5月25日に給食を喫食したのち7日間(5月26日13名、27日49名、28日47名、29日38名、30日27名、31日17名、6月1日6名)にわたり、平均潜伏時間は84時間であった。しかし、患者のほとんどが3〜5歳の園児であったことから、症状の察知に遅れがあったと思われ、実際の潜伏時間はこれより短期間と推測される。患者の主症状は下痢(87%)、発熱(86%)および腹痛(68%)であった。
原因食品と推定された5月25日の給食およびその前後に調理された給食等の食品材料、飲料水、調理施設および器具等のふきとり材料について食中毒起因菌の検索を行った結果、いずれからも既知病原菌は分離されなかった。一方、園児303名、教諭16名および給食従事者3名について検便を実施したところ、園児155名、教諭4名および給食従事者1名からSEが分離された。なお、教諭および給食従事者は園児と同じ給食を喫食していた。
園児、教諭および給食従事者由来株各々4株、2株、1株、計7株について、ファージ型別およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターン解析を行った。ファージ型別は国立感染症研究所細菌部に依頼した。その結果、供試した7株はすべてファージ型4、また制限酵素XbaIおよびBlnIによるPFGEパターンもそれぞれ同一であった(図)。本事例ではSEが推定原因食品から分離されなかった。
わが国における過去のファージ型4のSE分離株はPFGEパターンのバリエーションが少ない(本月報Vol.19、No.6、1998参照)ことから、その一致のみで因果関係を判断できないが、他の疫学的状況を勘案すれば、本事例は同一汚染源に起因したSE食中毒であることを強く示唆できる。
発生要因として鶏卵の関与を疑い調査した。推定原因食とされた給食メニューの中で、鶏卵が使用されたものは「かき揚げ」だけであった。しかし「かき揚げ」は殻付き鶏卵を用いて5〜6回に分けて調理されており、鶏卵が直接の原因とは考えにくい状況であった。むしろ「かき揚げ」の調理工程からの二次汚染が疑われたが、検食および調理施設等からSEが分離されず、原因の特定には至らなかった。
神奈川県衛生研究所 沖津忠行 佐多 辰 山井志朗
相模原保健福祉事務所