インフルエンザ流行に伴う超過死亡について
インフルエンザが大流行したシーズンには、非流行年と比べ多くの死亡が観察されることが知られており、これを超過死亡(excess death, excess mortality)と呼んでいる。この超過死亡は、インフルエンザ、肺炎、急性気管支炎をはじめとする急性呼吸器疾患を原死因とする死亡に限らず、循環器疾患、脳血管障害、糖尿病など様々な原死因の超過死亡現象をももたらし、ひいては国民総死亡数にも観察されることが確認されている。(表)
インフルエンザによる死亡は、多くの場合、呼吸器感染症の終末像として肺炎死と診断されるため、インフルエンザ流行のインパクトを死亡数で検討する場合、インフルエンザ死亡数(例年数百程度)に肺炎死亡数(例年数千程度)を加えた「肺炎およびインフルエンザ死亡数」を用いることが多い。厚生省結核・感染症発生動向調査によると、インフルエンザの定点あたり報告数が30.0人を超え、インフルエンザが大流行したシーズンは、1989/90、1992/93、1994/95、1997/98、1998/99であり、これらのシーズンには「肺炎およびインフルエンザ死亡数」曲線がベースライン曲線を越え、超過死亡がみとめられている(図)。国民総死亡数に関して解析を行っても同様の結果が得られる。1996/97シーズンでは、患者数は少なかったが、多くの超過死亡が観察されていた。図のベースライン曲線はSeasonal ARIMA(autoregressive integrated moving average)なる手法により求めたものである。この場合、95%信頼区間を超えた死亡数を超過死亡と定義している。
インフルエンザおよび肺炎による死亡の90%以上は65歳以上の高齢者であることから、これらの超過死亡の多くは高齢者の死亡が原因であると考えられる。図中に示すように人口での65歳以上人口比率は年々上昇しているのも事実であるし、また加齢とともに慢性的基礎疾患を有するものの割合が高くなること、一度罹患したインフルエンザに対する免疫反応が弱いこと、加齢そのもの、なども原因であると考えられる。
国立感染症研究所
感染症情報センター 谷口清洲 進藤奈邦子