飲料水を原因とした腸管出血性大腸菌O157感染症の集団発生事例−長野県
概要:1999年7月14日、飯田市内の病院から腸管出血性大腸菌(EHEC)O157患者1名の発生の届け出が所轄保健所にあった。保健所では、患者家族の検便、感染源調査および疫学調査を開始した。家族4名の検便の結果、2名の健康保菌者を確認した。また、調査により患者宅近隣の住民にも下痢症状を呈する者がいるとの情報を得、7月19日に患者宅の小規模水道給水栓の水、7月20日にその配水池の水について検査を実施した。その結果、いずれからもEHEC O157が検出され、7月21日に住民の健康調査を開始した。
この小規模水道は、15世帯73人が利用しており、EHEC O157が検出されたことから小規模水道の給水を停止した。住民の健康調査により実施した検便の結果、新たに患者3名、健康保菌者14名の合計17名からEHEC O157を検出した。これに伴い学校等における接触者検便を行ったが、結果はすべて陰性であった。約2週間後の8月2日に再度住民の健康調査と検便を行い、新たに1名の健康保菌者が確認された。その後、患者の発生はなく、病原体保有者の菌陰性化を確認した8月18日をもって本事件の終息とした。
本事例における患者は4名、死者0名、健康保菌者17名であり、患者の主な症状は、血便を伴う下痢、腹痛、発熱であった。
疫学的調査:初発患者が飲用していた小規模水道利用の15世帯73人と患者等の接触者62人について検便を実施した。飲料水については、この小規模水道の給水栓、配水池の水、配水池の上流に位置する集水池等より採水した9検体と、近隣の小規模水道水3検体について菌検索を行った。また、環境調査として、その地域における河川水4検体、自然動物の糞7検体について菌検索を行った。
菌検出は直接分離培養とともに、ノボビオシン加mEC培地で増菌培養後、免疫磁気ビーズ法を実施し分離培養を行った。ただし、水については1〜3リットルをメンブランフィルターを用いて濾過し、一部トリプトソイブイヨンで前培養を行った。分離培地は、クロモアガーO157、BCM O157、SMAC寒天、CT-SMAC寒天を用いた。
この結果、小規模水道利用の21人と小規模水道水2検体、および環境調査で採取した自然動物の糞2検体よりEHEC O157を検出した。
ヒト、小規模水道水および自然動物の糞から分離されたEHECの生化学的性状等はすべて一致し、血清型はO157:H7、Stx1およびStx2産生性であった。制限酵素XbaIおよびApaIを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動法によるDNAパターンも、すべて同一パターンを示し(図)、プラスミドプロファイルも一致していた。また、分離菌株の薬剤感受性試験(KB法)を実施したところ、供試薬剤ABPC、CP、SM、ST、TC、TMP、CPFX、GM、KM、NA、CTX、FOMの12薬剤すべてに感受性であった。
以上の調査により、本事件の発生原因は、小規模水道配水池水のEHEC O157:H7による汚染と断定した。ただし、自然動物の糞と小規模水道配水池水の汚染との因果関係については明らかでない。
本事例は水系感染であったが二次感染者はなく、感染源を特定することができた貴重な事例であった。
長野県衛生公害研究所 小山敏枝
長野県飯田保健所 中村 勤 林 恵美 藤本和子