千葉県柏市で発生したボツリヌス食中毒事例
1.事件の探知:1999(平成11)年8月13日、千葉県内の病院から薬務課に、「入院中の患者がボツリヌス中毒の疑いがあるので、抗毒素の供給方法を問い合わせたい」との電話があった。この情報を受けて管轄保健所は、担当医師から食中毒の疑いがあることを確認し、調査を開始した。
患者は12歳の女児で、8月6日朝、悪心のため近医を受診したものの症状は改善せず、同日夕方再度受診し、意識混濁、四肢麻痺などの症状で入院した(詳細は本月報Vol.20、No.11、p.8参照)。
2.ボツリヌス中毒の診定:8月13日、患者が入院した病院から検査材料として患者血清および糞便が東京都立衛生研究所に検査依頼された。毒素検査の結果、翌14日にA型ボツリヌス毒素が確認された。この結果を受け、担当医師は「ボツリヌス食中毒」の発生を保健所に届け出た。その後の検査で、患者糞便からA型ボツリヌス菌が検出された。
3.原因食品の調査:保健所による患者家族からの聞き取り調査により、患者が発病前日の8月5日の昼食に「ハヤシライスの具」を喫食していることがわかった。この「ハヤシライスの具」はパック入りの「惣菜」で、7月28日に冷蔵状態でT生協から宅配され、冷蔵保存の表示があったものの、患者宅では室温で保存されていた。原因食品の調査では、事件の探知が患者発生より1週間経過していたことから、患者の食べ残し、あるいは廃棄された袋等、直接患者と関連ある検体は入手できなかった。そこで、患者宅の冷蔵庫内保存食品に加えて、T生協の協力を得て製造元から取り寄せた「ハヤシライスの具」の検査を行った。さらにT生協とその利用者の協力により、患者が喫食した商品と同日に宅配された「ハヤシライスの具」25検体、および同時期に宅配されたその他のレトルト食品等5検体を回収して検査を行った(表)。
4.食品検査および結果:食品50gを片側濾紙付きストマッカー袋に秤量し、1%ペプトン加PBS を50ml加えストマッカー処理を行った。濾紙内側から40mlを分取し、3,000回転で30分間遠心分離後、上清を毒素検査用試料とした。沈渣は少量の1%ペプトン加PBSに懸濁し、2本の可溶性デンプン0.2%、ブドウ糖0.3%添加クックドミート培地に分けて接種した。1本はそのまま、1本は80℃10分加熱処理し、35℃で6日間嫌気培養後マウスを用いて毒素試験を行った。その結果、80℃10分加熱処理の「ハヤシライスの具」1検体からA型ボツリヌス毒素が検出され、卵黄加CW寒天培地を用いた分離培養でA型ボツリヌス菌が分離された。本菌は、PCR法(タカラおよびTakeshiらのプライマーを使用)でAおよびB型毒素遺伝子の保有が確認され、"Bサイレント"(B型毒素遺伝子を保有するが、少なくとも生物活性を有するB型毒素は産生しない)であることが判明した。また、食品由来株、患者由来株はSmaI、NurI、KspIを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動において、いずれも同一のパターンを示した(図)。
千葉県衛生研究所 内村眞佐子 小岩井健司
東京都立衛生研究所 門間千枝 柳川義勢