今シーズン流行前のインフルエンザ抗体保有状況(平成11年11月12日現在)

厚生省感染症流行予測調査事業では、各都道府県と協力して、予防接種対象疾患について各種疫学調査を実施している。インフルエンザについては、患者からのウイルス分離、分離されたウイルスの性状調査とともに、インフルエンザ流行シーズン前における一般国民の年齢別抗体保有状況を調査(感受性調査)している。今年度インフルエンザのHI抗体測定には、今シーズンのワクチン株を含めて下記の4抗原を使用した。また、抗体価の表示は昨年度から1:10を最低抗体価とする新しい表示法を採用している。

1999(平成11)年11月12日現在、神奈川、静岡、福島、山形、富山、長野、高知、宮崎より感受性調査結果が報告されている。年齢群別の検査数の合計は、0〜4歳256例、5〜9歳231例、10〜14歳217例、15〜19歳203例、20〜29歳201例、30〜39歳207例、40〜49歳202例、50〜59歳204例、60歳以上204例で、総数1,925例である。にはHI抗体価の陽性基準として1:10以上および1:40以上を示した。また、A/シドニー(H3N2)に対しては、1:80以上についても示した。さらに、1:10以上の抗体保有者の年齢群別幾何平均抗体価を示した。

A/北京/262/95(H1N1)は、本年度を含めて3シーズンのワクチン使用株である。A(H1N1)型はここ数年散発的に分離されているが、流行の主体とはなっていない。そのため年々抗体保有率は低下してきている。特に10歳未満と20歳以上の年齢群では保有率が低い。また、幾何平均抗体価は大部分の年齢群では1:20未満である。

A/シドニー/5/97(H3N2)は、昨年度と本年度のワクチン使用株である。過去2シーズンに亘って流行の主体となってきたために、高い抗体保有率を示している。幾何平均抗体価も、他の3株に対するよりも高く、特に15歳未満で高い価を示している。本株類似ウイルスが本シーズンも流行の主体であれば大きな流行とはならないであろう。しかし、抗原性の変化にも対応するためには、1:80以上の抗体価が必要とされるが、特に20歳以上の年齢群では、約10%の低い保有率である。

B/山東/7/97は、本年度のワクチン使用株である。昨シーズンまで使用されてきたB/三重/1/93とは抗原性が異なる。本株は、ビクトリア系統に属し、従来散発的に分離されてきた。本株に対しては抗体保有率・幾何平均抗体価ともに、20歳代が若干高いものの大部分の年齢群において低い。

B/山梨/166/98は、昨シーズンのB型インフルエンザ流行株のうちB/ハルビン/7/94系統株を代表して本年度調査に用いた。本集計では20歳代と60歳以上を除く全年齢でB/山東に対するよりも高い保有率を示している。幾何平均抗体価は、10歳代が1:20以上と若干高いのみである。

A/ソ連型(H1N1)は、これまで3シーズン流行がなかったこと、各年齢群における抗体保有率がかなり低いこと等から、今シーズンは流行する可能性を考慮しておくべきであろう。A/香港型(H3N2)では、今年の南半球における流行でも昨シーズンと同様のA/シドニー類似株が主流を占めており、大きく抗原性がずれたウイルスはほとんど分離されていない。WHO世界保健機関)をはじめ諸外国ではA/香港(H3N2)、シドニー類似株の流行が主となると予想しているが、わが国における高い抗体保有状況を見ると、この類似株が主流行株となった場合には、流行は大きくならないことが予想される。しかしながら、東アジアでわずかながら広がりを見せているA/福島株様の、シドニー株から2管以上抗原変異したウイルス株が流行した場合には、シドニー株に対して抗体価の高くない(1:40以下)高齢者の間では感染が拡大することが危惧される。従って、ワクチン接種によって高い抗体価を持たせることが必要であろう。流行予測調査においても、福島株に対する抗体調査を追加実施している。一方B型については、ワクチン株であるビクトリア系統のB/山東株および昨年のワクチン株系統のB/山梨株に対しても抗体保有率は依然低く、B型に対する注意も必要と考えられる。

最新の抗体保有状況はhttp://idsc.nih.go.jp/yosoku99/FlusokuJ/Flusoku-1.html参照。

国立感染症研究所
感染症情報センター・予防接種室

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る