全国市町村における風疹ワクチン接種方式と接種実施率
目的:本邦における風疹ワクチンの接種方式と実施率を、全国の市町村単位で行政担当者に調査を依頼し、集計結果から実態を明確にして今後の計画立案に資する。
方法:厚生省予防接種研究班班員として、1989年以来全国各市町村に定期予防接種の接種方式と接種状況について各県を通じて各市町村の担当者に依頼して継続調査を実施、風疹に関しては新予防接種法により定期化された1995年以降について、毎年9月に前年の状況を市町村単位で集計の上県単位で集計、その結果を筆者が中央集計し、各年の集計結果を研究班に報告、同時に提言をそえて市町村担当者に還元し接種計画立案の参考としている。
結果と考案:
(1)各年度とも全国市町村の90%以上から回答が得られた。
(2)集計年(年度)は各年4月〜翌年3月で報告する市町村が増加した。
(3)各年度の接種該当者(接種予定者)としては、単にその年度に定期接種年齢に達した児の人数だけによる算定方式(厚生省の従来の公的な接種率報告方式)でなく、前年度まで接種できていない児の数も加算して接種予定者とする方式(積残し加算方式)が実際の状況をより明確に反映していると思われるとの提言の結果、積残し加算方式で接種計画をたてる市町村が増加し、その数は1997年度は「積残し方式」:「新規対象者だけ」:「その他」=2,278:613:185であった。
(4)接種対象者に個別に通知しているか、広報など集団対象の通知だけかの全国調査では、大都市地域ほど個別通知をしていない傾向があり(無理もない状況は理解できるが)、通知などきめ細かな行政サービスが望まれる。
(5)1997年度の風疹ワクチン接種状況の概略は下記のようであった:
1)年少児(90カ月未満)については3,090市町村、1,358,110名の接種実施者の情報が得られた。全員個別・無料が接種者全体の64%、全員集団・無料が14%、小学1・2年生は集団・乳児は個別が20%であり、他の群は少なかった。市町村当たり接種者の多い市町村(大都市部)で「個別・無料」が多かった。
2)年少児全体の接種率は60%で、個別接種地区に低い傾向があり、最多集団の個別・無料地区で57%であった(表1)。
3)中学生では3,074市町村、649,275名の接種実施者につき情報が得られた。全員個別・無料が接種者全体の28%、集団・無料が71%で実施されていた。全体の接種率は46%で、接種方式により28〜71%のひらきがあり、個別接種全体の接種率28%、集団接種全体の接種率70%と、個別接種地区の接種率の低さが注目された。ほとんどの地区で男女を問わず接種されていた(表2、男女比は略)。
(6)年度による中学生を対象とした接種状況の変化を表3にまとめたが(1997年度は表2参照)、新予防接種法でそれまでの義務接種に代わり接種努力が強調され、集団接種が個別接種に変わった当時、今後は接種したい子供だけが勝手に接種すれば良いし、予防接種は重要ではないという一部のマスメディアの誤報もあり、個別接種・無料群では1995年度は接種率17%台という惨憺たる接種状況が明らかとなり、その後もやや向上の傾向にあるが相変わらず接種率は高いとはいえない。
まとめ:最近3年間の風疹ワクチン定期接種の接種実施状況は必ずしも良好ではなく、特に中学生を対象として個別接種で実施されている群では接種率20%前後という状況であり、先天性風疹症候群の発生が危惧されている。今後市町村をはじめとする直接の保健衛生行政担当者だけでなく、医療関係者(特に小児科関係者)、学校教育関係者、マスメディアなど広く一般の関係者との連携で接種の普及の努力をしたい。
名古屋大学医学部国際保健医療学 磯村思无