先天性風疹症候群28症例のウイルス遺伝子診断とその可能期間
目的:先天性風疹症候群(CRS)の診断は、臨床的には眼、耳、心臓の3大症状により、また、血清学的には患児の風疹IgM抗体の存在によって行うのが一般的である。1999年4月1日施行の「感染症新法」においては、CRSが届出制になり、CRS患児からのウイルス分離またはウイルス遺伝子検出が病原体検査指針として加えられることになった。本研究は、患児の検体中の風疹ウイルス遺伝子の検出によってさらに確実に診断すること、およびその可能期間の調査とを目的とした。
対象と方法:1日齢〜3年9月齢までのCRS患児28例から両親の同意を得て、咽頭ぬぐい液、尿、血液、脳脊髄液(CSF)、白内障レンズ等の66検体を採取して、検体中の風疹ウイルスゲノムRNAを、E1遺伝子の1部を逆転写-nested PCRで増幅することにより、アガロースゲル電気泳動で検出した。
結果:各組織からのウイルス遺伝子の検出率とその最長検出期間は、白内障レンズ6/6(100%、3年9月)、咽頭ぬぐい液9/17(53%、1年4月)、CSF5/10(50%、10月)、血液5/15(33%、2年)、尿5/18(28%、8月)であり、全体では30/66(46%)であった(図)。上記66検体以外では、皮疹2例、血清2例が陽性であった。
考察:白内障レンズは100%陽性であったが、手術で摘出しない限りウイルスが持続感染しているものと思われた。各検体の陽性陰性の違いは各症例に依存するものであるが、検体の保存状況によっても大きく影響するものと思われた。−80℃の保存を推奨したい。血液は全血を、抗凝固剤としてはヘパリンではなくEDTAを用いるのが望ましい(ヘパリンはPCRの阻害物質)。生後4月位までが陽性率が高いので、レンズを例外としてこの期間内に診断するのが望ましい。
国立感染症研究所ウイルス製剤部 加藤茂孝