千葉県における無症状病原体保有者を主とした腸管出血性大腸菌O26による集団発生事例

1999年9月に、千葉県安房郡和田町の保育園児を中心に、腸管出血性大腸菌(EHEC)026:H11による集団感染事例が発生した。本事例の菌陽性者数は13名であったが、初発患者以外の12名はすべて自覚症状がない無症状病原体保有者であった。以下事例の概要と分離菌株の性状について報告する。

 1.事例の概要と経過

9月14日、EHEC O26患者発生が届け出られた。患者は3歳の保育園児で、9月9日に水様便および血便を呈して病院を受診し、検便の結果VT1を産生するEHEC血清型026が検出された。患者の症状は、受診の翌日には軟便数回、翌々日には普通便に回復と比較的軽症であった。届け出を受けた保健所では、患者が通っている保育園関係者と園児家族を対象に疫学調査を開始すると同時に接触者検便を実施した。疫学調査では、保育園職員および園児の中に、下痢等胃腸炎症状を呈する者はいないことが明らかとなった。しかし、保育園職員(9名)、保育園児(39名)、保育園児家族(83名)の検便の結果、保育園児10名、園児家族2名からEHEC 026を検出した。保育園は年齢別に3クラスに分かれており、クラス別菌陽性者数は、2歳児クラス:4名中1名(25%)、3歳児クラス:14名中2名(14%)、4歳児クラス:21名中7名(33%)であった。原因究明のため、保存検食および食材119検体、調理器具等のふき取り等35検体、排水等9検体について検査が行われたが、いずれの検体からも原因菌は検出されず、汚染経路を特定することはできなかった。

本事例は有症者が1名のみの集団発生であったにもかかわらず、事例が終息したのは発生から80日後の12月3日であった。終息まで日数がかかった原因は、菌陽性者の排菌が長引いたことにある。初発患者は12日間のホスホマイシン投与の後整腸剤(乳酸菌製剤)が処方され、受診の2日後に症状は回復したが、排菌は61日間続いた。無症状者12名のうち2名は菌陽性が判明後直ちに抗生剤が投与され、以後再排菌は認められなかった。残りの10名は、抗生剤の投与は行われず整腸剤が処方され、1名は次の検査で菌陰性となったが、9名は4〜35日間排菌が続き、平均排菌日数は15.7日であった。検便は、CT-RMACを用いた直接分離培養法で1〜3日おきに行われ、最も排菌が長かった患者では検便回数は20回以上に及んだ。

 2.分離株の性状

13名から分離されたEHEC 026株について、血清型、毒素型、薬剤感受性(ABPC、TC、SM、CP、KM、NA、SXT、TMP、FF、GM、CIP、CTX)およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターン(XbaI)を調べた。13株はVT1を産生し、上記12薬剤のすべてに対して感受性を示した。血清型は12株が026:H11で、1株は026:H-であった。さらに026:H11株のPFGEパターンは同一であるが、026:H-株(Lane 9)は異なったパターンを示した(図1)。一方、Lane 13の株(026:H11)は026:H-(Lane 9)が分離された園児の家族(保育園に通園していない1歳の弟)由来株で、園児からの家族内二次感染と考えられたことから、本事例は026:H11株と026:H-株による混合感染事例であることが推測された。

千葉県衛生研究所 内村眞佐子 小岩井健司
千葉県安房保健所 木内良春
千葉県安房保健所鴨川地域保健センター 保田優子

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