フィリピンから帰国後に4類感染症であるデング熱・ジアルジア症を同時発症した14歳男児の一例

フィリピンから帰国後に感染症新法第4類感染症であるデング熱およびジアルジア症を発症した14歳男児例を経験した。海外帰国者の発熱、下痢症例に接したときに注意すべき疾患として、その概略を報告する。

 症例:日本在住の14歳男児。
 主訴:発熱、全身倦怠感、眼窩痛、腹痛、下痢。
 既往歴:1995年までは毎夏フィリピンに滞在。
 病歴:1999年8月17日〜31日まで母の実家があるフィリピンマニラ市に滞在、現地では特に体調の変化はなく帰国。9月4日より38℃台の発熱出現。9月5日発熱、倦怠感、腹痛を主訴に外来を受診。高熱は持続し、全身の筋肉痛、眼窩痛に加え9月6日早朝より緑色水様便頻回、尿量も低下し再診。白血球減少、血小板減少、脱水傾向あり入院した。

 入院時現症:体温38.5℃、心拍数84/分、呼吸数24/分、血圧132/48mmHg。意識清明。眼球結膜充血。口唇腫脹発赤。頬部紅斑あり。咽頭発赤軽度。頸部・腋窩・鼠径部に腫大したリンパ節を触知。左下腹部に圧痛。肝脾腫なし。

 入院時主要検査所見:WBC 3,600/μl 、RBC 471×104/μl 、Hb 13.4g/dl、Ht 40.6%、Plt 10.1×104/μl 、PT 62%、APTT 54.3msec 、Fbg 253mg/dl、TT 28%、HPT 39%、FDP 10μg/ml、Dダイマー 4.2μg/ml、AST 101IU/l 、ALT 82IU/l、LDH 309IU/l 、T-Bi 0.3mg/dl、UN 13mg/dl、Cr 0.9mg/dl、Na 134mmol/l、K 3.4mmol/l 、Cl 101mmol/l、CRP 1.7mg/dl

 経過:発熱、下痢および海外渡航歴から、輸入感染症としてマラリア、デング熱、腸管寄生虫疾患などを疑い検索を進めたが、入院時(病日2)の末梢血からマラリア感染赤血球は検出されなかった。

デングウイルスIgM capture ELISAでIgM抗体陰性、rapid kitによる血清IgG、IgM抗体は陰性であったが、血清を材料としたRT-PCR法でDEN3、DEN共通プライマー陽性、病日9の血清ではIgM capture ELISAでIgM抗体陽性、rapid kitでもIgG、IgM陽性となった。血清デングウイルスHI価は1:80から1:20,480以上と有意に上昇していた。また、入院時の便検体からジアルジアの栄養体が多数検出され、本症はデング熱(DF)による肝機能障害、発熱、血小板減少ならびにジアルジア症による下痢、腹痛と診断した。臨床的に出血傾向は認めないものの、検査上はDIC前段階と考え低分子ヘパリン持続静注を行ったが、第4病日にWBC 1,500/μl 、Plt 1.8×104/μlと血小板減少著しく、血性吐物がみられたため血小板10単位を輸血した。第5病日から37℃以下に解熱傾向となり、手掌、前腕、足背から掻痒を伴った紅斑が出現し翌日には下腿へ拡大、小出血斑を混じていた。血小板、白血球数は第7病日から回復し第14病日に正常化し退院となった。

ジアルジア症に対しては第2病日からメトロニダゾール750mg/日内服を10日間続け、第5病日、第12病日の再検査では虫体、嚢子ともに陰性となった。

今回は渡航歴から輸入感染症を積極的に疑い、また各方面の協力を得たことにより迅速診断が可能となった。DF、ジアルジアはともに感染症新法第4類感染症として指定がなされているが、診断のためにはまず疾患の存在を疑うこと、病原診断について各部門、各機関の相互協力を得ることが重要である。確定診断は一般施設で行えないため、症状が軽度のものは受診していても見落とされている可能性があり、渡航歴のある発熱、下痢症などをみる際には注意が必要である。

東京慈恵会医科大学付属病院小児科 宮塚幸子 富川盛光 藤原優子 衛藤義勝
東京慈恵会医科大学熱帯医学講座 熊谷正広 大友弘士
国立感染症研究所ウイルス第1部 高崎智彦 山田堅一郎 倉根一郎
国立感染症研究所感染症情報センター 岡部信彦

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