九州におけるアデノウイルスの血清疫学

九州におけるアデノウイルスの侵淫状況を知る目的で、1993〜1995年にかけて、九州内の地方衛生研究所(地研)の共同研究として、アデノウイルスの中和抗体を測定した。

中和試験に供したアデノウイルスは、3、4、5、7、19型の標準株で、国立感染症研究所より分与された。HEp-2細胞を用い、血清は各地研で1994年9〜10月に採取したものであった。検査血清は細胞維持液で4倍に希釈し、56℃で30分間非働化した後 512倍まで2倍階段希釈した。希釈後の検査血清と、100TCID50/25μlの各ウイルス液を25μlずつ混合し、37℃で3時間、さらに4℃で1晩中和した。マイクロプレートに培養して単層になったHEp-2細胞に、中和後の検査血清を2穴ずつ接種し、細胞変性効果(CPE)を1週間観察した。接種ウイルスを50%以上中和した血清の最高希釈倍数で中和抗体価を表し、1:8以上を抗体陽性とした。

各ウイルス型別、年齢層別の抗体保有率をに示した。アデノ3型に対しては沖縄県を除いて、どの年齢層も抗体保有率が高かった。抗体陽性者の66%の抗体価が1:8および1:16であった。沖縄県は非常に低い抗体保有率で、この50年間ほとんど流行がなかったと推測された。

アデノ4型に対する抗体保有率は、高年齢層で高い傾向であった。長崎県、宮崎県では抗体保有率は各年齢ごとに大きく変動し、1:32以上の抗体価を有するものが抗体陽性者のそれぞれ50%、44%あった。大分県は、各年齢層ともほぼ同じ抗体保有率であった。その他の県・市では総じて抗体保有率が低く、沖縄県は全年齢層で抗体保有率が0%であった。

アデノ5型に対する抗体保有率は、今回検査した型の中では最も高かった。沖縄県は特に高く、5〜9歳以上では各年齢層とも70%以上であった。九州全体でみると、抗体陽性者の49%が1:64以上の抗体価を示した。

アデノ7型に対する抗体保有率は総じて低く、30歳未満では15%以下で、高齢層になるにつれて上昇する傾向にあった。沖縄県は全年齢層を通じて0%であった。このような状況下で、1995年に7型が侵入してきたと推定される。

アデノ19型に対する抗体保有率は13%以下と低く、福岡市、北九州市、佐賀県、熊本県、沖縄県では抗体保有率は0%であった。福岡県・長崎県では過去に流行があったのであろう。

この調査によって、九州におけるアデノウイルスの侵淫状況・流行状況が把握できた。多くのヒトが幼児期に感染するといわれている5型は、いずれの県でも高い抗体保有率と抗体価を示し、次に3型に対する保有率が高かった。4、7、19型に対しては抗体をほとんど保有していない県もあった。沖縄県は地理的な影響からか、少し異なる流行状況が推測された。

1993〜1995年に九州の各地研が分離したアデノウイルスは、約40%が3型で、次いで2、5、1型。4、19型は少数、7型は0であった。九州でアデノウイルス7型が分離されたのは、1996年1月からであった(本月報Vol.18、No.4)。

19型は眼疾患から多く分離されるので抗体が上昇しにくいこともあるが、多くの県で分離されていなかった。しかし、1996年以降熊本県においても分離されるようになった。

福岡県保健環境研究所
福岡市保健環境研究所
北九州市環境科学研究所
佐賀県衛生研究所
長崎県衛生公害研究所
大分県衛生環境研究センター
宮崎県衛生環境研究所
鹿児島県衛生研究所
沖縄県衛生環境研究所
熊本県保健環境科学研究所
(文責:西村浩一 甲木和子)

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