大阪における今冬季のRSウイルスの動向

RS(Respiratory syncytial)ウイルス(RSV)は、冬季の乳児肺炎の主要な原因ウイルスであり、臨床領域では非常に重要視されている。一方、その病態は多様であることなどから、感染症新法の感染症発生動向調査における対象ウイルスにはなっていない。そのため、地方衛生研究所においても流行像の把握が困難となっている。しかし1999/2000冬季、大阪府立公衆衛生研究所に搬入された検体には、肺炎または細気管支炎を臨床症状とするものが増えてきている。そこで我々は、感染症発生動向調査および大阪府感染症流行予測調査会事業から得られた検体についてRSV検索を行い、大阪府における動向を明らかにしようとした。

呼吸器症状を示す検体について、FL細胞およびMDCK細胞を用いてウイルス分離を行った。さらに肺炎、細気管支炎、または下気道炎を示す一部の検体については、RSVテストパック(ダイナボット)を用いて抗原検出を行い以下の結果を得た。

 1.今冬季においては、RSV は1999年10月に初めて普通感冒患者から分離された。
 2.11月中旬〜1月上旬にかけて下気道炎症状を示す検体でRSVテストパックを用いた抗原検索では、15/43(35%)が陽性であった。
 3.以下の事例のように死亡例を含む重症患者からRSVを分離した。

 (1)患者は生後2カ月の女児、急性細気管支炎の疑い、発熱39.1℃、嘔吐、入眠傾向ののち呼吸不全、心停止・自然呼吸消失、翌日永眠。咽頭および鼻腔ぬぐい液からRSV分離陽性。MDCK細胞によるインフルエンザウイルスは分離陰性。

 (2)患者は3歳の女児、基礎疾患あり(脳性マヒ)、呼吸停止で入院、1〜2時間で自然呼吸を回復するが、人工呼吸管理を12日間必要とし、そのあと8日後に退院。咽頭ぬぐい液からRSV分離陽性。MDCK細胞によるインフルエンザウイルスは分離陰性。

 (3)患者は2歳の女児、高熱が7日続いた重症インフルエンザ(下気道炎あり)として検査依頼、鼻汁よりRSV分離陽性。MDCK細胞によるインフルエンザウイルスは分離陰性。

RSV感染症は、単なるかぜ様疾患から重症肺炎まで、その病態は多様であり、実体の把握は困難なことも多いが、院内感染の報告も多いことから、サーベイランスを強化していかなければならないウイルス感染症であると思われる。

大阪府立公衆衛生研究所 加瀬哲男 森川佐依子 前田章子 奥野良信

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