急性胃腸炎の散発例と保育施設での集団発生から検出したノーウォーク様ウイルス(NLVs)の遺伝子系統解析−山形県

ノーウォーク様ウイルス(以下NLVs)は、ヒト下痢症起因ウイルスの重要な病原体の一つとして位置づけられており、遺伝子学的に多様性を示すことが知られている。しかし、その地域性やシーズンごとにどのような流行を引き起こしているのか不明な点が多い。そこで1998/99シーズンにおいて、散発的に本県で検出されたNLVsの遺伝子解析を行い、その流行状況を調査した。また、今回の散発例と1998年5月に鶴岡市内の2つの保育施設で同時に発生したカキとは関連のない集団発生との関連性について併せて検討したので報告する。

1998年12月〜1999年4月の間に県内の2つの小児科定点(山形市と鶴岡市)から寄せられたウイルス性胃腸炎が疑われる散発例のうち、PCR法で遺伝子を検出したNLVsの2nd PCR産物および保育施設で発生した集団食中毒の有症者の糞便から検出した2nd PCR産物を材料とした。遺伝子の検出は、35/36、NV81/82/SM82およびMR3/4、Yuri22F/22Rのプライマーセットを用いた2系統のnested PCR法で行った。遺伝子解析は、検出された2nd PCR産物の一部についてダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、アミノ酸に翻訳後、系統樹を作成して行った。塩基配列のホモロジー検索およびアミノ酸への翻訳はGenBank、DDBJを用いて行った。系統樹の作成はGENETYX-WIN Ver.4を用いてUPGMA法により作成した。

定点からの散発例134検体中61検体からNLVsの遺伝子を検出し、検出率は46%であった。遺伝子が検出された検体の中には、35/36系またはYuri系のどちらか一方のプライマーセットで増幅されるものと、両方のプライマーセットで増幅されるものがあり、地域内(県内)流行においてNLVs遺伝子の多様性をうかがわせる結果であった(1)。そこで、増幅パターンの異なる代表的な2nd PCR産物5件についてシークエンスを行い遺伝子解析を行った。GenBankに登録されている標準株と各株間の塩基配列およびアミノ酸配列の相同性を表1に、系統樹を図1に示した。その結果、Genogroup IIに属するCamberwell株に近いものが98/山形1、98/山形2、98/山形3の3株、Yuri株に近いものが98/山形4の1株、Genogroup Iに属するSouthampton株に近いものが98/山形5の1株であった。このことから、本県において、1998/99シーズンには少なくとも3つのクラスターに属するNLVsの流行があったものと考えられた。一方、2つの保育施設における集団食中毒の有症者の糞便32検体中15検体からはYuri22F/22Rプライマーでのみ増幅されるNLVsの遺伝子が検出された。また、RFLPおよびSSCPの2つの遺伝子解析結果から、両保育施設で起こった事件は同一のウイルスによるものであることが推測された(2)。そこで、2nd PCR産物1検体について塩基配列を決定したところ、系統樹の上でYuri株に最も近かった(98/W51)。しかし、今回の散発例から検出されたYuri株に近い株(98/山形4)と比較したが、相同性は塩基配列で70%、アミノ酸配列でも77%であり、直接的な関連性は見いだせなかった(表1)。

今回、本県における散発例から検出されたNLVsの遺伝子学的解析を行ったが、この調査結果は単年度でしかなく、シークエンスした件数も少なかった。また、今回の散発例と保育施設での集団発生との関連性については、やはり散発例のシークエンスした件数が少なかったことから、有力な因果関係を見いだすことはできなかった。したがって、今後も経年的な遺伝子解析の調査が必要と思われる。

 文 献
(1) 病原微生物検出情報 20(8), 193-194(1999)
(2) 山形衛研所報 No.31, 45-52(1998)

山形県衛生研究所 村田敏夫 後藤裕子 水田克巳 村山尚子 早坂晃一
勝島小児科医院 勝島矩子
鶴岡市立荘内病院小児科 伊藤末志

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