食品のPCRスクリーニングが有効であった腸炎ビブリオO3:K6食中毒事例−広島市

近年、TDH陽性の腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)O3:K6による食中毒が全国的に多発している。しかし、これらTDH陽性の腸炎ビブリオO3:K6菌株を、食品から分離した報告は少ない。1999年9月上旬、市内で発生した腸炎ビブリオ食中毒事例で、食品より患者分離株と同一血清型のTDH陽性腸炎ビブリオO3:K6を検出したのでその概要を報告する。

1999年9月8日、市内の複数の医療機関から、H仕出し屋の弁当喫食者に食中毒患者が発生している旨の届出があった。患者は、当初8グループ31名で、いずれも9月7日製造の弁当を喫食後、翌8日に腹痛、下痢、発熱等の食中毒症状を呈していた。そのため、同日、検食51、施設スワブ10、患者便9検体について食中毒菌の検査を行った。翌日、患者便9検体中6検体のTCBS平板上に腸炎ビブリオ様のコロニーを認めた。そのため、同定検査とともに、平板上のコロニーと平板上に菌不発育の3名については食塩ポリミキシンブイヨン増菌培地を用い、tdh およびtrh 遺伝子の確認を同時検出用PCR法で行った(表1)。その結果、6検体すべての平板上のコロニーと増菌培地3検体中1検体よりtdh 遺伝子を検出した。

検食およびスワブについては、TCBS平板上にコロニーの発育を認めなかったが、患者便の結果をうけ、刺身、ゆでタコ等の魚介類の増菌培地について、患者便と同様にPCR法によるスクリーニングを試みた。その結果、ゆでタコとタコの酢の物よりtdh 遺伝子を検出した()。そこで、この2検体の増菌培地から分離培地への塗抹枚数を増やし、100株程度釣菌することにより、ゆでタコから患者分離株と同一のTDH陽性の腸炎ビブリオO3:K6を1株検出した。その他の食品等の検査結果については表2に示した。また、患者便24名中15名からTDH陽性の腸炎ビブリオO3:K6を検出し、調理従事者からは検出しなかった。

食品の増菌培地をPCR法でスクリーニングすることは、原因食品の可能性を示唆することができ、釣菌できない場合でも原因究明のうえで有用と考えられる。本事例のゆでタコの腸炎ビブリオMPN値とPCR法によるtdh 遺伝子陽性管数によるMPN値は 1,500MPN/100gと 930MPN/100gで値が非常に接近していたことも、菌分離を可能としたと考えられるが、一般的には、食品からTDHもしくはTRH陽性の腸炎ビブリオを検出するには、多数の菌株を釣菌する等多大な労力と時間を要する。

今後、さらに、スクリーニングした増菌液からの簡易で迅速なTDHあるいはTRH産生株の分離法の開発が望まれる。

広島市衛生研究所
児玉 実 高垣紀子 橋渡佳子 石村勝之 毛利好江 伊藤文明
河本秀一 笠間良雄 山岡弘二 荻野武雄

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