食品残品(にぎり寿司)から耐熱性溶血毒(TDH)産生性腸炎ビブリオO3:K6が検出された食中毒事例−大分県
概要:1999(平成11)年9月26日11時、大分県O郡内の医療機関より嘔吐、下痢、腹痛などの胃腸炎症状を呈した患者を診察した旨、管轄保健所に届け出があった。調査の結果、共通の食事は9月25日に行われた新築祝いの席に出された折詰の仕出し弁当、別折詰のにぎり寿司(いずれも同一飲食店で調理したもの)と自宅で調理した赤飯、野菜の煮物、巻き寿司などであった。これらを喫食した47名中17名が26日の1時〜21時にかけて発症し、その主要症状は下痢15名(88%)、腹痛11名(65%)、発熱6名(35%)、嘔吐6名(35%)で、発症までの平均潜伏時間は18.5時間であった。
材料と方法:患者便6検体(26日採取3検体、28日採取3検体)、食品残品23検体について原因菌の検索を行った。TCBS寒天平板などの分離平板に直接塗抹するとともに食塩ポリミキシンブイヨンで37℃、16時間増菌後、TCBS寒天平板およびビブリオ寒天平板にて分離培養した。患者便については、分離平板に発育した白糖非分解菌を常法により同定後、PCR法でtdh とtrh 遺伝子の有無を確認した。食品については、食塩ポリミキシンブイヨン培養液およびそれぞれの分離平板の濃厚発育部分をトリプトソイブイヨンに掻き取り(以下、コロニー掻き取り法)、37℃で7時間振とう培養した培養液について、PCR法によりtdhとtrh遺伝子の有無をスクリーニングした。患者便および食品からの分離菌株については、血清型別後、逆受身ラテックス凝集反応(RPLA)によりTDH産生性を確認した。さらに、これらの分離菌株について、パルスフィールド電気泳動法(PFGE)を用いた制限酵素Not IによるDNA切断パターンの比較を行った。
結果:患者便6検体中3検体(26日採取分)から腸炎ビブリオO3:K6(TDH +)が分離された。食品23検体については、食塩ポリミキシンブイヨン培養液からのPCRはすべて陰性であったが、コロニー掻き取り法により振とう培養した培養液からのPCRでは1検体がtdh スクリーニング陽性となった(表1)。スクリーニング陽性となった分離平板について菌の分離を試みた。該当する分離平板から81株を釣菌し、PCR法にてtdh 遺伝子の有無を調べたところ、tdh 遺伝子保有株が1株分離された。この株について常法により同定、血清型別、RPLAによるTDHの検出を行ったところ、腸炎ビブリオO3:K6(TDH +)と確認された。また、分離されたO3:K6(TDH +)株について行った制限酵素Not I処理によるPFGEパターンは、患者便由来株と食品由来株で同一であった(図1)。
患者の下痢便から分離される腸炎ビブリオのほとんどは、tdh とtrh 遺伝子の両方、またはどちらか一方を保有しているのに対し、海水等の環境や魚介類等の食品から分離される腸炎ビブリオはtdh 、trh 遺伝子のいずれも保有しない株がほとんどであり、原因と考えられる食品からTDH陽性の腸炎ビブリオを検出することは難しいとされている。我々は、これまで病原大腸菌の検索にコロニー掻き取り法とPCR法を組み合わせた方法を用いることにより、効率よく病原大腸菌が検出できることを報告してきた。今回の腸炎ビブリオ食中毒事例においてコロニー掻き取り法とPCR法を組み合わせた方法を従来の方法と併用することで、推定原因食品からTDH陽性の腸炎ビブリオを検出することができた。
大分県衛生環境研究センター 緒方喜久代 阿部義昭 渕 祐一 帆足喜久雄
大分県三重保健所衛生課