東京都内で発生した髄膜炎菌性髄膜炎・敗血症等について
1998年4月〜1999年10月までに、東京都内で14名の髄膜炎菌が原因菌と考えられる患者発生があった。髄膜炎は1998年に4名、1999年に5名の患者発生があり、そのほか敗血症患者2名、肺炎患者1名、上気道炎患者1名、尿道炎患者1名の計5名の髄膜炎以外の患者発生が報告されている。髄膜炎以外の患者は髄膜炎菌以外に起因菌は検出されなかったものと思われる。分離された菌株は型別のため都立衛生研究所に搬入された。
届け出のあった髄膜炎患者の年齢は表1に示されるように1歳未満1名、10〜19歳2名、20〜29歳2名、40歳以上4名であった。髄膜炎菌性髄膜炎は一般的には通常は15歳以下で、乳児が多いと言われていが、報告のあった患者は幼児・青年に限らず、50〜60歳代の高年齢者もみられた。男女比は男性5名、女性4名であり、差は見られなかった。敗血症患者など5名の年齢構成は、表2に示すように、敗血症患者は20代と30代であり、肺炎患者は30代、上気道炎患者は40代、尿道炎患者は20代であった。
髄膜炎菌はその莢膜の抗原性により13の血清型(A、B、C、D、H、I、K、L、X、Y、Z、W135、29E)に分類される。髄膜炎患者8名の血清型はB群、1名はUT(型別不能)であった。敗血症由来の血清型はC群とW135群、肺炎由来の血清型はW135群、上気道炎由来の菌型はB群、尿道炎由来はUTであった。
患者家族の検査では、1歳未満の髄膜炎患者の父親は同じB群を保菌しており、30歳代の肺炎患者の子供はW135群を保菌していた。また他の患者(髄膜炎・敗血症等)の関係者検査では、患者5名の関係者合計71名について咽頭ぬぐい液の検査を行ったが、全員陰性であった。
現在、日本では髄膜炎は無菌性髄膜炎の報告が多く見られるが、世界的にみるとアフリカなどで、髄膜炎菌性髄膜炎の患者発生報告が多く見られている。流行菌型はアフリカやアジアの一部(ベトナム・ネパール・モンゴル)ではA群であるが、1995年7〜8月のアメリカでの集団感染(480名)、1997年のフロリダでの集団感染(養護施設)、そして1996〜1998年に流行した(約1,300名/3年)ニュージーランドの菌型はB群であった。1997〜1998年にかけて流行(約600名)したイギリスの菌型はB群とC群であった。1999年12月〜2000年1月にかけてハンガリーでも髄膜炎の流行(約30名)が報告されている。日本では幸いすべて散発事例であり、患者関係者の検査でも2家族に保菌者がいたものの、両家族とも無症状であった。しかしこれまでは数年に1〜2名の患者発生であったものが、1998年以降、約1年半で14名と増加傾向が認められており、今後とも本症を監視していく必要がある。
東京都立衛生研究所微生物部細菌第二研究科
遠藤美代子 奥野ルミ 下島優香子 村田以和夫 関根大正 小久保彌太郎