仕出し弁当による毒素原性大腸菌O153食中毒集団発生事例−長崎市

1.概要

1999(平成11)年11月2日、長崎市内の医院から腹痛・下痢等の食中毒症状を呈した患者数名が相次いで来院し、治療を受けている旨の連絡があった。長崎市保健所の調査で、患者はすべて10月31日市営総合運動公園で開催された長崎市PTA連合会体育大会に参加し、昼食の仕出し弁当を食べていることが判明した。弁当を調製したのは市内の飲食店で、2つの学校に納入した弁当144個のうち129個が喫食され、関係者およびその家族37名が発症していたことも分かった。

このため当試験所に、患者検便・弁当を調製した飲食店従業員の検便・ふきとり・弁当食材残品について食中毒検査の依頼があり、同日夜間に検体が搬入された。また、翌日廃棄する予定であった弁当ポリ容器も発見され、「異味異臭を呈していた」との声が多かったポテトサラダ等の食べ残しをふきとるなどして回収し検査を実施した。この日の患者数は59名であった。

また、長崎市保健所は、喫食調査に基づき行った弁当の食品別χ2検定で、ポテトサラダを原因食品と推定した。

11月4日、患者数は75名となった。飲食店には2日間の営業停止処分を実施。

11月5日、患者数は80名となる。当試験所が実施した患者検便で、58検体中28検体から病原大腸菌O153を検出した。Vero毒素はVT1・VT2ともに陰性であった。

11月8日、患者数は87名(保護者57・教師4・子ども23・弁当を喫食した従業員3名)となる。また、O153が検出された患者便のうち8検体についてPCR法とEIA法による耐熱性エンテロトキシン(ST)および易熱性エンテロトキシン(LT)の検査を実施し、すべてにSTを検出した。

11月10日、O153およびSTが患者便から検出されたことから、直接培養ではO153を検出できなかった食品の毒素検査をPCR法で実施した。保存していたポテトサラダ等の食品を、L-broth培地で培養し、培養液から調製した熱抽出サンプルを使用してPCRを行った結果、ポテトサラダよりSTを検出した。さらに、菌の検出を再度試みるために、L-broth培養液をBTB寒天培地に塗抹した。

11月12日、ポテトサラダを培養したBTB寒天培地のコロニーから病原大腸菌O153を検出。これにより長崎市保健所は、食中毒の病因物質をポテトサラダと確定した。

最終的に、検便121検体、食品その他27検体の検査を当試験所で実施し、そのうち52名でO153を検出するとともに、43名でSTを検出した。また、病原大腸菌であったことから、その血清型を同定するため数多くのコロニーについて凝集反応を行うという大変根気のいる検査となった。

 2.検査について

 (1)SMACおよびBTB 寒天培地を使用して分離培養を行い、BTB培地上に優先的に発育していた黄色いコロニーを釣菌した。

 (2)確認培地としては、TSIおよびLIM培地を使用した。また、同定キット「アピ20E 」を使用して生化学性状検査を行った。結果は、E.coliと同定された。

 (3)デンカ生研の病原大腸菌免疫血清を用いてスライド凝集法によりO群型別試験を行った。多価血清では混合5、因子血清ではO153に凝集がみられた。

 (4)H抗原は、H12であった。

 (5)毒素については、まずVero毒素をPCRにより実施した。結果はVT1・VT2ともに陰性であった。このため、STとLTについてPCRを行い、STを検出した。PCRで陽性のものはEIA法により確認した。

 3.疫学調査について

今回の事件の喫食者総数は153名、患者数は92名(死亡者0)、発病率60%、潜伏時間は平均40.1時間、症状についてみると、腹痛88%、下痢(水様便)82%、下痢回数(一日平均)5.3回、嘔気47%、嘔吐15%、頭痛36%、発熱34%となっている。また、病原大腸菌は、発病率が高いといわれているが、本事件において、ポテトサラダを舐めたり、11カ月齢の幼児にサラダをつまんだ後の箸でご飯を食べさせた程度の喫食状況でも発症していることから、サラダ全体の高濃度汚染が疑われた。

汚染経路の追究として、原因食品と推定したポテトサラダを含めた弁当の原材料、調理施設および器具類のふきとりにより、原因菌の検索を行った結果、いずれからもO153は分離できなっかった。また、施設への給水は市の上水道が使用されていた。ただ(1)原材料の加熱不足による菌の残存、(2)調製の際の器具または手指からの汚染、(3)放冷時の高い室温下での放置、(4)サラダの盛りつけ後すぐ横に高温の米飯を盛りつけたこと等の調理状況から、急速な菌の増殖が起こり集団感染事件に発展したのではないかと推察される。

長崎市保健環境試験所細菌血清検査係

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