中国へ修学旅行した高校生がEHEC O157:H7など複数の下痢原性細菌に集団感染した事例の概要−秋田県
(Vol. 21 p 94-95)

秋田市内の高校生が1998年4月に中国へ修学旅行し、腸管出血性大腸菌(EHEC)O26やSalmonella Albany等に感染した事例の概要を本月報Vol.19、No.10に報告した。同高校は1999年10月14日〜10月19日に再び中国への修学旅行を実施し、生徒がEHEC O157:H7など多種類の下痢原性細菌に感染した事例について報告する。

10月21日、中国修学旅行に参加した秋田市の高校の生徒が18日から腹痛、下痢等の食中毒症状を呈した。患者糞便が当所に送付され、翌22日、当該患者がETEC O167(LT+)およびEAggEC OUTに感染していることが判明した。秋田市保健所の調査により判明した本事例の概要は表1に示すとおりであり、修学旅行参加者420名中208名(生徒199名、引率等9名)が食中毒症状を呈していたことから、秋田市保健所は本事例を集団食中毒と判断し、有症者206名の検便を22日に当所に送付した。

当所では、前年の経験から混合感染の可能性を考慮し、PCRによるスクリーニングとCT-SMAC、 CT-RMAC、 DHLによる分離培養を併用したEHECの検査と、PCRによるスクリーニングを併用した下痢原性大腸菌の検査ならびに食中毒菌全般の検査を実施した。

検出された下痢原性細菌の一覧を表2に示した。EHEC O157:H7(VT2+、 eaeA +)が6名から検出された他、血清型と保有病原遺伝子がそれぞれ異なるEAggECが27名、 ETECが12名、 AEECが28名から分離された。また、4種類のサルモネラが計8名、カンピロバクターが1名から分離された。なお、EHEC O157:H7感染者の家族はすべてEHEC O157:H7陰性であった。一方、データは示さないが、分離されたEHEC O157:H7 6株には異なる2種類のXba I PFGEパターンを示す株がみられた。また、分離株のパターンには、県内で分離されたEHEC O157:H7のパターンと比較して、約400kbの領域のバンドが少ないという特徴がみられた。

EAggEC、 ETEC、 AEECの検査は以下のとおり実施した。初めに患者糞便のECブロス培養液から調製したテンプレートを検体としてPCRによりスクリーニングを実施した。次に、陽性となった糞便について、あらかじめ分離培養を実施しておいたDHL上に生じたコロニーを釣菌してPCR等により同定した。その際、本事例ではスクリーニング陽性検体が多数であったことから、1平板からの釣菌コロニー数を5個に制限せざるを得なかった。したがって、スクリーニング陽性となりながら、目的菌を分離し得ない検体が生じるものと予想された。実際、表3に示すように、スクリーニング陽性となった138検体のうち菌分離に成功した検体は67検体(49%)に過ぎなかった。分離率は1平板当たりの釣菌数を増やすことにより改善し得ると考えられるが、今回の事例では実施困難であった。

発症時期などから、患者は中国において感染したものと推定された。EHEC O157:H7感染者の家族に感染者がみられなかったこともこの可能性を裏付けるものと考えられた。一方、本事例の特徴は多種類の菌が同一集団から検出されたことであり、これは日本と中国の衛生状態の違いの反映と思われ興味深い。

前年と同じ高校が再び実施した中国修学旅行により集団食中毒が発生し、生徒からEHEC O157:H7が検出されたことから、本事例は社会的にも注目を集めた。今後、衛生状態の悪い地域への修学旅行を実施する際には感染予防のための適切な指導がなされることが望まれる。

秋田県衛生科学研究所
八柳 潤 齊籐志保子 伊藤 功 佐藤宏康 宮島嘉道

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