健康者から分離された大腸菌の血清型および病原因子保有状況−埼玉県
(Vol. 21 p 95-96)

いわゆる下痢原性大腸菌はその病原性機構の違いによって、腸管病原性大腸菌(Enteropathogenic Escherichia coli :EPEC)、腸管侵入性大腸菌(Enteroinvasive E. coli :EIEC)、腸管毒素原性大腸菌(Enterotoxigenic E. coli :ETEC)、腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic E. coli :EHEC)、腸管凝集性大腸菌(Enteroaggregative E. coli :EAggEC)の5つに分類される。下痢原性大腸菌の確定には、病原性の証明が必要であるが、血清型を調べることにより下痢原性大腸菌を推定する方法が多くの検査室で用いられている。一方、健康者から市販の血清型別セットで凝集を示す菌株が分離される例も多いが、その分離状況はほとんど報告されていない。そこで、健康者から分離される大腸菌の血清型別および既知の下痢原性大腸菌の病原因子保有状況を調査した。

調査期間は1997年5月〜1999年1月にかけて、県内在住の園児、児童、生徒、給食関係者およびバザー関連で検査依頼のあった一般県民4,667名を対象とした。大腸菌の分離は、DHLおよびSM培地上の大腸菌様コロニー3個を釣菌後、生化学的性状検査により同定した。大腸菌と同定されたすべての菌株について、病原大腸菌免疫血清(デンカ生研)によりOおよびH血清型別を行うと同時に、LT、 ST、 STXの遺伝子の保有状況をPCR法により検討した。さらに血清型別された菌株について、eaeA invE aggR astA の保有状況をPCR法により検討した。

調査対象4,667名のうち血清型別された大腸菌が分離されたのは429名(9.2%)で、10名からは2種類の血清型が検出され、総検出株数は439株であった。検出された血清型は、市販の44種類のO血清型のうち37種類、H血清型では22種類のうち20種類が検出され、118血清型に型別された。最も多く分離されたのは、O1:H7で77例、次いでO18:H7が50例、O1:H12およびO1:HUTが各17例であった()。EPECに属する血清型であるO18:H7は50株すべてで、検討した病原因子を保有していなかった。血清型別された439株中、病原因子のいずれかを保有していたのは76株であった。LT遺伝子およびinvE を保有する菌株はなかった。EHECは2名から検出され(0.043%)、その血清型はO157:H7(VT1&2)およびO119:H21(VT1)であった。ETECも2名から検出され(0.043%)、その血清型はO25:H-(STIa)およびOUT:H-(STIa)であった。

今回の調査で、一般健康者の9.2%から市販の病原大腸菌診断用血清により型別された大腸菌が検出された。しかし、上位10血清型のうち既知の病原因子を保有していたのは2血清型にすぎなかった。今後は、患者由来の大腸菌との比較検討が必要であろう。

埼玉県衛生研究所
倉園貴至 近 真理奈 山口正則 大関瑤子
国立公衆衛生院 伊藤健一郎

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