日本人海外旅行者のデングウイルス感染症例、1994〜1999年−大阪府
(Vol.21 p 114-115)

日本におけるデング熱の流行は、1942〜1945年にかけて、長崎や大阪などで見られたが、その後はデング熱の国内発生の報告はない。しかし近年、東南アジアを中心として、熱帯、亜熱帯地域でデングウイルス(DEN)感染症が日常的に流行しており、これらの方面への日本人旅行者が現地で感染し、帰国前後に発症する例が少なくないと言われている。我々は、1994〜1999年にかけて海外に旅行または滞在中にデング熱に罹患した疑いのある患者()27名のうち21名について、ウイルス学的、血清学的調査を行った。

患者血清の血清学的試験として、DEN-2型と日本脳炎ウイルス(JEV)を抗原としたHI試験を行い、一部、迅速診断法として、PanBio社(オーストラリア)のDengue fever IgM, IgG検出キット(J. Clin. Microbiol. 36, 1, 1998)を用いた。ウイルス分離は、デング熱患者の急性期の血清と全血液材料(buffy-coat部分)をC6/36細胞に接種して実施した。培養中に細胞と培養液の一部を採取し、補体結合試験とDEN型別primerを用いたPCR法によってウイルス遺伝子の検出を試みた。また、培養細胞の一部を用いて抗原スライドを作製して、抗JEV血清および抗DEN亜型特異的モノクローナル抗体によって同定を行なった。

DENに対するHI抗体は、21名中14名の対血清で有意に上昇した()。HI試験ではフラビウイルス群に共通の交差反応性を示しているが、PanBio社のDengue fever IgM, IgG検出キットで、ウイルスが検出された7例中の6例の急性期血清でdengue-IgMが陽性であった。ただし、症例No.11の第6病日血清はIgM陰性で、第14病日血清では陽性であった。症例No.21(第2病日血清)でIgMは陰性であった。

デング熱の確実な診断法は患者の血液からDENを分離するか、あるいはDEN遺伝子を検出することとされている。今回、我々はDEN感染を疑われた患者21名のうち、13名の急性期血液でウイルス分離試験を行い、6例からウイルスを分離、別の1例はPCRのみ陽性であった()。このウイルス分離状況は、患者の急性期(第5〜6病日)の全血液材料(buffy-coat)で6例がウイルス分離陽性で、血清材料では2例が陽性であった。PCRによる遺伝子検出の結果、全血液では7症例が陽性であったが、血清材料では3例が陽性であった()。従って、ウイルス分離、検出のための材料は、血漿(血清)部分よりも全血液または、白血球部分が適切であると思われる。デング熱のウイルス血症持続期間は通常、発病後5〜6日間とされており、今回ウイルスが分離された6症例は、採血日がウイルス血症持続期間内であった。

通常、DENに感染した患者の多くは軽度の症状で経過するとされているが、近年、東南アジア諸国で重症型のデング出血熱やデングショック症候群の症例の増加が報告されている。これらは別の型のDENの再感染によって起こるという報告が多い。東南アジア諸国への旅行が増えている日本人旅行者にも、今後、再感染例が増加し、デング出血熱が発生する恐れがある。輸入感染症としてのDEN感染症に対して、迅速で確実な診断が望まれる。

大阪府立公衆衛生研究所 木村朝昭 弓指孝博 奥野良信

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