ホタルイカ生食を原因とする旋尾線虫幼虫移行症の発生状況
(Vol.21 p 118-118)

ホタルイカの生食を原因とする旋尾線虫幼虫による腸閉塞や皮膚爬行症の患者発生は1987年以降であるが、この背景にはホタルイカの主産地であった富山湾から全国へ生きたままの遠隔地輸送が始まったことがあった。1994年に、ホタルイカを生食して寄生虫に感染する患者が急増しているという情報がマスコミで大きく取り上げられ、大手スーパーなどから出荷自粛を要請された富山県漁業協同組合連合会(ホタルイカ協会)では、その対策としてホタルイカを急速冷凍処理して出荷するように決めた。その結果、1995年の患者発生は文献上全く報告がなくなり、前年までの3年間毎年10例以上あった報告数と比べて患者は激減した。これは、ホタルイカの冷凍加工処理が功を奏したのと、生ホタルイカそのものの消費が減少した結果と考えられ、旋尾線虫幼虫移行症もいずれ姿を消すかのように思われた。しかし、1996年には我々が報告した1歳半の女児例(西日皮膚・59巻4号、598-600、1997)を含め、少数ながら患者の発生が報告されるようになり、その後は症例数も年ごとに増加してきている。

今年の患者発生数は、5月26日現在、我々の教室で虫体を確認したものが4例、このほか東京都内某総合病院皮膚科で旋尾線虫幼虫が確認されたものが1例あった。虫体確認例の中には鳥取県で発症した例も含まれている。鳥取県沖では1989年から底引き網によるホタルイカ漁が始まり、1999年には 190トンの漁獲量を記録しているという。ホタルイカは富山湾だけでなく、鳥取、兵庫、京都、福井、石川、新潟の各漁港にも水揚げされている。いままではホタルイカの生食などしなかったような地域からも患者発症の報告が増えることが懸念される。

旋尾線虫幼虫による前眼房内寄生も1例報告されているが、旋尾線虫幼虫移行症は腸閉塞型と皮膚爬行疹型の2型がその病型の大部分を占めている。腸閉塞型には、腸壁が肥厚して手術適応になるものと、麻痺性イレウス症状を呈し対症療法のみで軽快するものとがある。いずれについてもアニサキス症と異なり、虫体が1cm×0.1mmと極めて細く小さいため、内視鏡による虫体の確認摘出は不可能である。皮膚爬行疹型についても皮膚内での幼虫の移動が顎口虫幼虫に比べて早く、外科的に摘出して病理組織学的に確認するのが困難な例が多い。そこで我々は、旋尾線虫Type X幼虫の薄切切片を抗原とする蛍光抗体法による抗体測定系を開発し、臨床応用の可能性を追究してきた。この方法で検査した患者数は1994年1例、1995年9例、1996年10例、1997年19例、1998年7例、1999年16例、2000年(5月末日現在)10例と抗体検査依頼例は増加傾向にあり、虫体検出例も今年は昨年を上回っている。ホタルイカ生食の危険性を改めて指摘したい。

東京医科歯科大学大学院国際環境寄生虫病学 赤尾信明

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