日本で流行している1型ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)サブタイプ
(Vol.21 p 141-142)
HIV-1のサブタイプは塩基配列の違いにより現在までのところ、Mグループ(A、B、C、D、E、F、G、H、I、J)とN、Oの12種類に分類されている。日本で見られるサブタイプは従来はBが主流であったが、近年、異性間性的接触による感染では、サブタイプEが増加している。また、最近では少数ながらサブタイプB、E以外のAやC等も報告されるようになった。
そこで、日本におけるこれらサブタイプの侵淫状況について明らかにするため、1991年〜1999年3月までに当研究所に依頼のあったHIV-1感染者検体298例(末梢血単核球および血漿)からHIV-1遺伝子RNAを抽出し、サブタイプの解析を行った(表)。
サブタイプの解析は、サブタイプBまたはEの流行地(日本、北米、東南アジア等)での感染例については、PCRによるサブタイプBとEの簡易鑑別法およびenv V3領域のペプチドを用いたELISA法により行った。これらの方法で判定が困難であった症例、サブタイプB、E以外の流行地(アフリカ等)での感染例および感染地不明例については、env C2V3領域の塩基配列を決定し、neighbor-joining法による系統樹解析によりサブタイプを決定した。
サブタイプ解析の結果、凝固因子製剤による感染例では28例すべてが、サブタイプBであった。同性間の性的接触による感染例では75例中73例とそのほとんどがサブタイプB(97%)であったが、サブタイプAとEも1例ずつ検出された。
一方、異性間の性的接触による感染例では、194例中サブタイプEが134例と最も多く、ついでサブタイプBが39例、A 10例、C 7例、D 3例、G 1例であった。国籍別に見てみると、異性間性的接触による感染194例中86例が日本人、108例が外国国籍で、外国国籍の内訳は、東南アジア92例、アフリカ11例、南米4例、北米1例であった。外国国籍108例中91例(84%)がサブタイプEであり、B 8例、C 5例、A 4例であった。また、異性間性的接触による日本人感染者においてもサブタイプEが43例(50%)と最も多く、ついでサブタイプBが31例(36%)、サブタイプA 6例、D 3例、C 2例、G 1例であった。
アフリカでの感染が疑われた症例の一部について、env領域に加えgag p24領域についても解析し、異なるサブタイプ間の組換えウイルスであるリコンビナントウイルスの可能性について調べた。その結果、タンザニア国籍の1例がenv C2V3領域とgag p24領域の結果が一致せず(env:サブタイプA、gag:サブタイプC)、リコンビナントウイルス、あるいは重複感染が疑われた。この症例について、gagからpol(pro-RT)領域について解析した結果、サブタイプAとCのリコンビナントウイルスであることが確認された。
また、静注薬物による感染が疑われた1例(南米)はサブタイプFであった。
以上の結果から、日本で流行しているHIV-1のサブタイプはB、Eが主流であるが、この他、A、C、D、F、G、A/C リコンビナント等も存在していることが明かとなった。特に、異性間の性的接触による感染においてはサブタイプが多様化しており、これら多様なサブタイプの分子疫学調査が、日本におけるHIV感染実体解明のため今後ますます重要になると考えられる。
神奈川県衛生研究所 近藤真規子 今井光信