老人保健施設におけるA群ロタウイルス胃腸炎の集団発生−山梨県
(Vol.21 p 144-144)

2000年3月中旬〜4月上旬にかけて、A老人保健施設で発熱、下痢、嘔吐を主症状とする胃腸炎患者が14名発生した。この施設は2階建てで、当時の平均入所者数は93名であった。初発患者は1階の入所者で3月13日に発症し、病院での免疫クロマトグラフィー法による検査でA群ロタウイルスが確認され、ロタウイルスによる胃腸炎と診断された。以後3月17日〜4月8日にかけて13名の患者が散発的に発生した。1階の患者数は13名で、15室のうち西側の7室に集中していた。2階の患者は1名のみであった。

初発患者以外の13名の糞便について検査を行った。ラテックス凝集法(ロタ-アデノドライ)でA群ロタウイルスが13検体中6検体から検出された。また、Gouveaらの方法によるRT-PCR法でロタウイルス遺伝子の検出と血清型別を行ったところ、ラテックス凝集法で陽性の6検体はRT-PCR法でもすべてロタウイルス遺伝子が検出された。また、ラテックス凝集法で陰性の検体のうち1検体からロタウイルス遺伝子が検出された。これらの血清型はいずれもG血清型の2型であった。アデノウイルスはラテックス凝集法で、小型球形ウイルスはRT-PCR法(NV81/82・SM82系、 Yuri系プライマー)で検出されなかった。HEp-2、 RD-18SおよびCaCo-2細胞を用いたウイルス分離はすべて陰性であった。

ロタウイルスが確認された患者8名(初発患者を含む)の症状は、発熱(37.1℃〜38.6℃)および下痢が全員にみられ、さらに嘔吐がみられた者6名、腹痛がみられた者が1名であった。脱水症を認めた4例は輸液を行い、症状は2〜4日で回復した。

ロタウイルスは冬季の乳幼児における急性下痢症の主要原因ウイルスとして知られているが、老人のロタウイルス感染という報告は少ない。G血清型2型は過去約10年間散発的に数例が検出されていたものの、大きな流行はなかった。そのため2型に対する免疫が低くなっていて、全般的に免疫能が落ちている老人に2型による胃腸炎が発生したと考えられるかもしれない。ロタウイルスは経口、あるいは飛沫感染で伝播するといわれているが、今回の事例では施設へのウイルスの侵入経路や施設内での伝播様式については不明であった。今回の事例より老人のロタウイルス感染についても注意が必要であると思われた。

山梨県衛生公害研究所 浅川洋美 町田篤彦 小澤 茂
山梨県立中央病院 横山 宏 山上隆也

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