飲食店でのA群ロタウイルスによる食中毒事例−島根県
(Vol.21 p 145-146)
患者の発生状況:2000年4月24日、H健康福祉センター管内の住民11名(Aグループ)が食中毒と思われる症状を示した。同グループの共通行動として4月17日にK健康福祉センター管内で食事をとっていた。調査の結果、食堂が調理した仕出し弁当を昼食として食べたAグループ40名中18名(発症率45%)の他、4月17日に同一施設で昼食を食べたBグループ10名中3名(30%)、同施設が調理した仕出し弁当を夕食として食べたCグループ9名中1名(11%)にも有症者がみられ、計59名中22名(37%)が食中毒様の症状を呈していることが判明した。3グループ共通の食品はなく、喫食から調査開始まで7日間経過しており、調理者および喫食者の記憶に不明瞭な点もあり、摂取状況の統計調査でも原因食品を特定できなかった。
患者は30〜80代であり、喫食時を起点とした潜伏時間は11.5〜 149.5時間(平均59.2時間)、主症状は水様性の下痢(91%)、腹痛(59%)、発熱(46%)、嘔吐(41%)、嘔気(32%)であった(図)。
病因物質の検索:健康福祉センターで実施された患者便、従事者便、施設ふきとりおよび従事者の手指についての食中毒原因菌の検査結果はすべて陰性であった。そして当所で実施したウイルス検査の結果、ロタクロン(TFB)にて患者便(A、Bグループ)12検体中7検体、従事者便(いずれも無症状)3検体中2検体が陽性となった。また、患者陽性検体2検体に電顕にてロタウイルス様粒子を確認した。小型球形ウイルス(RT-PCR法)、エンテリックアデノウイルス、アストロウイルス(ELISA法)は陰性であった。さらに陽性検体についてロタ-MA(セロテック)を用いたG血清型別を行なった結果、型別可能であった6検体はすべて2型であった(表)。
本件では検食が保存されておらず、また、事件の探知が遅れたため原因食品の検査は実施できなかったが、本事例はA群ロタウイルスによる食中毒と断定された。さらに3グループに特定の共通食品がないことから、広範に汚染された食品あるいは従事者からの二次汚染が患者発生を拡大したものと考えられた。
A群ロタウイルスによる食中毒様事例としては小中学校あるいは老人ホームなどでの発生報告は散見され、本県でも1986年に小中学校での事例(本月報Vol.8、No.3参照)を経験している。しかし、本事例のように飲食店を介しての成人のみの発生例は極めて稀な事例であろう。
なお、同時期の本県における小児の下痢症関連ウイルスの流行状況は、1999年12月〜2000年1月にノーウォーク様ウイルスが流行した後、2〜3月にA群ロタウイルスが流行、4月以降は両ウイルスが散発的に検出されている。また、本年検出されたロタウイルス11検体中型別が可能であった4検体のG血清型は1型と2型が各2検体であり、両型が流行していたものと推測された。
島根県保健環境科学研究所 飯塚節子 松田裕朋 保科 健 板垣朝夫
木次健康福祉センター 津田一男
浜田健康福祉センター 増田省一