1999/2000インフルエンザ流行シーズンにおけるC型インフルエンザウイルスの分離−埼玉県
(Vol.21 p 146-147)
1999/2000シーズンの埼玉県のインフルエンザ流行は、全国の状況と同様に、A(H1) とA(H3)の2亜型のウイルスによるものであった。我々は県内の患者から採取された咽頭ぬぐい液等の検体から、合計293株のA型ウイルス[A(H1) 型185株、A(H3) 型108株]を分離した。この流行期間中に県内の地理的に離れた地区で採取された2検体から、C型インフルエンザウイルスを分離したので、概要を報告する。
症例1:2000(平成12)年1月24日に38.5℃の発熱、咳、鼻汁および全身倦怠感のインフルエンザ様症状を発症した1歳男児で、同日に咽頭ぬぐい液を採取した。患児は発熱期間2日で軽快した。罹患時に患児の市外への移動は無かった。この地区は当時、インフルエンザ流行のピークを迎えていたが、患児と同居の両親および祖父母の発症は無かった。なお、インフルエンザワクチンは1999年11月下旬および12月上旬に接種済みであった。
症例2:2月28日に発熱40℃、咳および鼻汁を認め、翌29日に咽頭ぬぐい液を採取した4歳女児である。37〜39℃の発熱が5〜6日間続いた後に咳、鼻汁ともに軽快した。インフルエンザワクチンは接種していなかった。家庭内では弟が同様の症状を呈し、また患児の通う幼稚園でも同様の症状を認める児童が目立っていたが、患児以外の検体採取は実施できなかった。
両検体を数種類の培養細胞に接種して培養を開始したところ、両者ともMDCKで約1週間後に弱いCPE様変化を認めた。培養上清はニワトリ赤血球を凝集した(1:4〜8)が、モルモット赤血球は凝集しなかった。MDCKで継代したところ、ニワトリ赤血球凝集価は3日目に1:32〜64まで上昇した。培養上清を用いて実施した「ディレクティジェンFluA」は陰性であった。CPE像および赤血球凝集能(ニワトリ+、モルモット−)から、C型インフルエンザを疑い、既に報告されているNS遺伝子の一部を増幅するプライマーを用いてRT-PCRを実施したところ、明瞭な目的バンドを認めた。さらに、国立仙台病院ウイルスセンターに同定を依頼したところ、HI試験でC/Ann Arbor/1/50抗血清により凝集が抑制され、C型インフルエンザウイルスと同定された。
C型インフルエンザウイルスは、AおよびB型インフルエンザウイルスと比較して分離数が極端に少なく、そのほとんどは年間を通して散発的に分離されている。しかしながら、乳児院での集団発生や3カ月にもわたる地域流行の報告もあり、決して軽視できない呼吸器感染症である。
今回の2例は、いずれもいわゆる「インフルエンザシーズン」に検体採取されたものであり、臨床症状および周辺での流行状況から、当初はA(H1)あるいはA(H3)型ウイルスの感染が疑われたものである。例年、この時期に採取されたインフルエンザ様疾患患者の検体から分離されるウイルスは、多くはA型あるいはB型インフルエンザウイルスであるが、少数ながらアデノウイルス、エンテロウイルス等も分離される。今回のC型インフルエンザウイルスの例も含め、これらの少数例に関しても慎重にウイルス検査を進めることが重要であると考えられた。
埼玉県衛生研究所感染症担当
島田慎一 篠原美千代 内田和江 瀬川由加里 星野庸二
すずき小児科医院 鈴木邦明
秩父市立病院小児科 新井克己