山羊肉を原因としたSalmonella Weltevredenによる食中毒事例と県内外の発生状況−沖縄県
(Vol.21 p 164-164)

事件の概要:1999(平成11)年8月16日、沖縄県名護市の医療機関より食中毒症状を呈した30名の患者を診察した旨の連絡が北部保健所にあった。調査の結果、患者等は8月14日名護市内で開催された新築祝い参加者で、参加者135名のうち84名が発症し、12の医療機関で72名が受診、うち15名が入院した。患者の主な症状は下痢(96%、平均21回)、発熱(85%、平均39℃)、腹痛(86%)、頭痛(58%)、吐き気(28%)、嘔吐(25%)で、発症までの平均時間は16時間であった。喫食状況の疫学的統計処理結果より山羊刺身、山羊汁の可能性が最も高く、これらを喫食した88名のうち81名(96%)が発症した。

当所において患者4名の検便および山羊刺身、山羊汁の残品を検査した結果、すべての検体よりSalmonella Weltevreden;3,10:r:z6 (SW)が検出され、原因食品として確定した()。また、解体施設内にあったくず肉および冷蔵庫内のふきとり検査からもSWが検出された。山羊肉は違法に屠殺解体されたもので、8月14日午前10時に購入後、自宅において刺身、汁用に調理し、同日午後5時〜10時まで客に提供した。今回の食中毒発生要因は、密殺による不衛生な山羊の解体処理により山羊刺身用の肉が、山羊の消化管内に生息するサルモネラに汚染され、肉を氷にて冷却していたにもかかわらず、同日の気温30℃、湿度75%の気候条件が菌の増殖を助長したものと考えられた。

本県では山羊肉を刺身、汁にして食べる食習慣があり、山羊肉による集団食中毒が1989(平成元)年以降3件(1999:SW、1998:C. jejuni、1989:SW)発生し、うち2件がSWによるものである。

沖縄県内、国内、海外でのSWの発生状況:1989〜1999年の過去11年間に本所にて検査を行ったサルモネラ食中毒の事件数45件、患者数796名の事例のうち、SWによる事件数はEnteritidis(22件、49%)、Typhimurium(7件、16%)に次ぎ3番目に多く(6件、13%)、患者数はSE(445名、55%)に次いで2番目に多い(154名、19%)。本誌によれば、1991年以降、本県以外のSWの集団発生報告は、1994年栃木県内の温泉旅館の事例1例のみで、国内では非常に稀な血清型である。しかし、輸入感染症として海外渡航者下痢症からは高頻度に分離され、1995年にはインドネシア渡航後にSW腸炎を発症し、死亡した事例の報告がある。海外ではフィリピンの散発下痢症患者より分離されたサルモネラ血清型で、最も多いものがSW(30%)であり、マレーシアにおいてはTyphi、Typhimuriumについで第3位、ハワイ・ホノルルにおける小児下痢症においてはSWが最も高率(23%)に分離されている。その他タイ、インド等、特に東南アジア地域を中心に報告され、これらの地域においては普通にみられる血清型である。

感染源として本県では、山羊肉、インゲンの和え物、にがなの和え物、栃木県では鹿の子イカ(刺身)、シンガポールではカットフルーツ等の報告があり、タイではブロイラー、産卵鶏、ナイジェリアではヤモリ、マレーシアではネズミ等から高率に分離されている。

以上のことからSWの熱帯・亜熱帯地域における地理的分布、保菌動物あるいは食習慣との関連性等、興味深いところであり、今後も同菌に対する東南アジア等、熱帯・亜熱帯地域からの輸入感染症、輸入食品の汚染等の注意が必要である。

沖縄県衛生環境研究所
久高 潤 糸数清正 中村正治 平良勝也 安里龍二

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