1999年夏季に沖縄県八重山地域で多発したレプトスピラ症
(Vol.21 p 165-166)

レプトスピラ症は、主にげっ歯類が保菌動物となっている人畜共通の感染症で、全国的にはその発生は稀である。しかし、気候的に亜熱帯地域に属する沖縄県では現在も散発的な発生が続いており、他府県にみられない多種の血清型の存在が知られている。

1999年夏季に沖縄県八重山地域の西表島および石垣島でレプトスピラ症を疑う症例が多発し、当研究所において、菌の分離同定および血清抗体検査を実施したので報告する。

検査は、同年9月〜10月の間に八重山地域の医療機関からレプトスピラ症の疑いで検査依頼のあった23例(西表島15例、石垣島8例)について実施した。

23例中15例を陽性と判定した。菌が分離された検体が9例、菌は分離されなかったが抗体検査で陽性と判定したものが6例であった。陽性検体の血清型別は、 hebdomadis 7例、 grippotyphosa 5例、 pyrogenes 1例、 kremastos 1例で、1例については未同定である。今回の検査で菌の分離された血清型のうちgrippotyphosa pyrogenes は、本邦では沖縄県以外でのヒトからの報告はなく本県特有の血清型である。

陽性者を職業別に見ると、シーカヤックインストラクターやカヌーガイド等の観光に関連した職業が7例で最も多く、次いで農業4例、学生2例、土木業1例、その他1例の順であった。また、感染地域は西表島12例、石垣島3例で、推定される感染場所としては、川や滝が11例で最も多く、次いで水田2例、不明2例の順であった。性別は男性13例、女性2例であった。

主な臨床症状は、発熱(100%)、悪寒(93%)、頭痛(86%)、筋肉痛(57%)、眼球結膜充血(50%)、関節痛(50%)、 Jarisch-Herxheimer反応(43%)等であった。

本県においてレプトスピラ症は、毎年散発的に発生はしているが、今回の事例のように同一地域で同時期(1999年7月〜9月に発症)に多発した事例は少ない。なぜ八重山地域で本症が多発したのかは不明であるが、気候的要因、保菌動物等の環境的要因あるいはこれまで実態を把握できていなかった等が考えられる。

今回の事例において観光客の感染者はなかったが、感染源および感染経路を明らかにするとともに地元住民や観光業者に対してレプトスピラ症予防についての知識を普及啓発し、医療現場への情報提供を行うことがことが肝要である。また、実態を把握するためには、本疾病を感染症発生動向調査における届出対象疾病として取り扱う必要があると思われる。

沖縄県衛生環境研究所 中村正治 平良勝也 糸数清正 久高 潤 安里龍二
沖縄県立八重山病院  成田 雅

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